市川速水(いちかわ・はやみ) 朝日新聞編集委員
1960年生まれ。一橋大学法学部卒。東京社会部、香港返還(1997年)時の香港特派員。ソウル支局長時代は北朝鮮の核疑惑をめぐる6者協議を取材。中国総局長(北京)時代には習近平国家主席(当時副主席)と会見。2016年9月から現職。著書に「皇室報道」、対談集「朝日vs.産経 ソウル発」(いずれも朝日新聞社)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
日韓亀裂の正体は「初の報復」対「挙国防衛」/修復不能を危惧する緊急声明
日本の措置を受けて韓国が態度を硬化させるニュースが、続々と耳に届く。
7月22日、韓国国会の外交統一委員会で日本に規制撤回を求める決議案を全会一致で可決した。この決議で日本が踏みとどまるはずはないが、日ごろの激しい与野党対立を棚上げして超党派で決議したことにパフォーマンス性がある。
さらに与野党は7月29日、超党派組織「官民政協議会」を発足させ、輸出規制に対抗するための予算を組むことで合意した。「官民」、つまり行政・民間交流ともストップがかかる流れをつくった。
韓国の中央銀行、韓国銀行はそれに先立つ7月18日、政策金利を引き下げ、経済の減速に備える措置を講じている。政・経・官・民がトップダウンで日本への抗議をアピールすれば、それに異を唱える人は非国民呼ばわりされるのは日韓とも同じだ。
文在寅(ムン・ジェイン)大統領の支持率は、52%を上回り(リアルメーター調査、7月29日発表)、韓国与党の支持率も43%と最高水準に達している。
「国内の支持拡大を狙って日本叩きに精を出している」という日本的な見方は当たらないだろう。韓国大統領は任期5年(再任なし)が保障されているので少々の支持率低下で地位が揺らぐことはないし、逆に日本に屈服したかのように見えれば支持を猛烈に失うことにもつながるので、その反動としての強硬姿勢だからだ。
安倍政権は、これほど韓国の態度を硬化させる重大な決断をしたにもかかわらず、表向きは元徴用工訴訟の「報復」とはいわずに「通常の措置」を装う。ところどころに報復や敵視の本音が垣間見える。
たとえば安倍首相は「1965年に請求権協定でお互いに請求権を放棄した。約束を守らないなかでは、今までの優遇措置はとれない」というような言い方で。世耕経産相も「信頼関係が損なわれた」と今回の措置の背景を述べている。
河野外相は、日韓請求権協定に基づく仲裁委員会の設置に応じない韓国の南官杓(ナム・グァンピョ)駐日大使を呼びつけ、南大使が日韓の企業が賠償金を出し合う韓国案を提示した際、話をさえぎって「極めて無礼だ」と一喝した。
安倍首相は、元徴用工へ賠償を命じる最高裁判決が出た際には「あり得ない判断」と一蹴したこともある。「あり得ない」「無礼」といった、小馬鹿にした上から目線の態度も、戦後の日韓関係には見られなかったものだ。
韓国も、市民レベルまで見れば「アンチ日本」一色というわけではない。
日本製品不買運動に関する世論調査(リアルメーター、7月24日)でも、不買運動に今後、「参加しない」と答えた人が26%に上り、雰囲気に流されない層は健在だ。
また、大手紙・中央日報も、釜山市が日本との交流事業の全面見直しを表明したことなどを受けて、「中央政府は戦っても地方自治体・民間交流は続けるべきだ」というコラムを発信している(7月29日、ネット版)。
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