市川速水(いちかわ・はやみ) 朝日新聞編集委員
1960年生まれ。一橋大学法学部卒。東京社会部、香港返還(1997年)時の香港特派員。ソウル支局長時代は北朝鮮の核疑惑をめぐる6者協議を取材。中国総局長(北京)時代には習近平国家主席(当時副主席)と会見。2016年9月から現職。著書に「皇室報道」、対談集「朝日vs.産経 ソウル発」(いずれも朝日新聞社)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
日韓亀裂の正体は「初の報復」対「挙国防衛」/修復不能を危惧する緊急声明
そんななか、日本では、これ以上の関係悪化を憂い、韓国に対する半導体関連の輸出規制を即時撤回するよう求める声明が7月末、日本の市民77人が呼びかけ人になって発信された。学者やジャーナリスト、弁護士、「一市民」と名乗る人たちが次々と賛同者に加わり、5000人を超す勢いになっている。
この声明のタイトルは「韓国は『敵』なのか」。
当初の呼びかけ人は岡本厚・岩波書店社長や内田雅敏弁護士、和田春樹・東京大名誉教授らだった。
冒頭、日本政府が表明した輸出規制について「半導体製造が韓国経済にとってもつ重要な意義を思えば、この措置が韓国経済に致命的な打撃をあたえかねない、敵対的な行為であることは明らかです」と撤回を求めている。
声明は日韓の歴史にも多くを割き、「特別な歴史的過去をもつ日本と韓国の場合は、対立するにしても、特別慎重な配慮が必要になります。それは、かつて日本がこの国を侵略し、植民地支配をした歴史があるからです」「日本の報復が韓国の報復を招けば、その連鎖反応の結果は、泥沼です。両国のナショナリズムは、しばらくの間、収拾がつかなくなる可能性があります」と、これまでリベラル・革新勢力が出した様々なメッセージに比べて格段に高い危機感を表している。
今回の措置のきっかけになった元徴用工訴訟については、「民事訴訟であり、被告は日本企業です。まずは被告企業が判決に対して、どう対応するかが問われるはずなのに、はじめから日本政府が飛び出してきたことで、事態を混乱させ、国対国の争いになってしまいました」と筋違いであることを主張。中国人強制連行・強制労働問題を引き合いに出し、「1972年の日中共同声明による中国政府の戦争賠償の放棄後も、2000年花岡(鹿島建設和解)、2009年西松建設和解、2016年三菱マテリアル和解がなされていますが、その際、日本政府は、民間同士のことだからとして、一切口を挟みませんでした」と政府の対応の違いが鮮明だとした。
最後に「ネトウヨやヘイトスピーチ派がどんなに叫ぼうと、日本と韓国は大切な隣国同士であり、韓国と日本を切り離すことはできないのです。安倍首相は、日本国民と韓国国民の仲を裂き、両国民を対立反目させるようなことはやめてください。意見が違えば、手を握ったまま、討論をつづければいいではないですか」と結んでいる。
ネットで7月25日に公開されて以来、賛同者のリストに加わる人が1日1000人単位で増え、「ひと言」という応援コーナーもコメントであふれかえっている。
「韓国は日本にとり非核アジア達成のための重要なパートナー。日本政府は頭を冷やして居丈高な対韓姿勢を改めるべきです」
「隣国とは仲良く!これができないなら日本でオリンピックをする意味はありません」