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「表現の不自由展」の中止が突きつけた重大な課題

「あいちトリエンナーレ2019」の目玉企画はなぜ中止されたのか。何を考えるべきか

米山隆一 前新潟県知事。弁護士・医学博士

運営側の対応に瑕疵はあったか?

拡大記者会見で「表現の不自由展・その後」の中止を表明する愛知県の大村秀章知事=2019年8月3日、名古屋市東区の愛知芸術文化センター
 第五の論点は、「この様な抗議や批判、妨害が起こりうることは当然予想できるはずだったのに、それに備えていなかった運営側の責任である」です。

 まず「抗議」については、この指摘はある程度当てはまると思います。是非や好悪は別にして、SNSが発展した現在、議論を呼ぶような催しは何かのきっかけがあれば、すぐに「抗議」が殺到し「炎上」します。ことに今回の展示は、時節柄、一定数の抗議が来ることは相当程度に高い確率で予想されるものでした。

 一方、これらの展示会で運営に当たるイベント会社スタッフや、抗議の電話を受ける県庁職員は、決してクレーム対応の専門家ではありません。中止の会見に際して津田氏が述べた「抗議が殺到して現場が混乱しスタッフが疲弊した」は、ある意味必然であったと言えます。こういった抗議は、最初から「Q&A」を作り、専門の部署を設けて、あらゆる抗議はその部署に回して「Q&A」に沿って対応するよう決めておくことで、ずっとスムーズに対処できるものです。この点については、運営の反省点は一定程度あると思います。

 ですが、「妨害」については、明らかに悪いのは妨害を行った人です。ことに「ガソリンの携行缶を持っていく」などというFAXを送った人は、明白に脅迫、業務妨害であり、テロの予告とすら言えるものですので、愛知県警は全力で捜査に当たるべきです。この点について運営側の不備を責めるのは、まったくお門違いであろうと思います。

 ただし、運営側に県・県警も含めるのであれば、事前にそこまでの妨害がありうることを予想するのは難しく、妨害が明らかになった以上安全を守るためにいったん中止することは止むを得ないとしても、一定期間の後に警備を整えて対応することはできないのかという問題は残ります。

名古屋市長・大阪市長の中止申し入れは問題か?

拡大会見する名古屋市の河村たかし市長=2019年8月5日、名古屋市役所
 第六の論点は、「名古屋市長や大阪市長が中止を申し入れたのは問題だ」というものです。

 まずもって、政治家として「意見」を表明するのは自由だと思います。とはいえ、河村名古屋市長の様に、いきなり「中止」を要請し、中止後も関係者の「謝罪」を求めることは、明らかに行きすぎだと思います。上述した通り、公金の支出としてふさわしいか否かを判断する権限は基本的にトリエンナーレ実行委員会会長の大村秀章・愛知県知事にあり、大村知事がこれを認めた以上、それを尊重するのが、地方分権であり、民主主義です。

 以上、SNS上で頻見した六つの論点を整理しました。まとめると、
①今回の展示は「表現の自由」の文脈で問題となるようなものではなく、当然保護されるべきものである。
②今回の展示に対する評価は分かれるにせよ、民主的自治体である愛知県において民主的に選ばれた大村知事が認めている以上、公金の支出も問題ないということになると私は思います。

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筆者

米山隆一

米山隆一(よねやま・りゅういち) 前新潟県知事。弁護士・医学博士

1967年生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学系研究科単位取得退学 (2003年医学博士)。独立行政法人放射線医学総合研究所勤務 、ハーバード大学附属マサチューセッツ総合病院研究員、 東京大学先端科学技術研究センター医療政策人材養成講座特任講師、最高裁判所司法修習生、医療法人社団太陽会理事長などを経て、2016年に新潟県知事選に当選。18年4月までつとめる。2012年から弁護士法人おおたか総合法律事務所代表弁護士。

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