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小泉進次郎が4年前に私に漏らした結婚観

「政治家の妻」の期待を裏切って/進次郎クリステル結婚に願う

三輪さち子 朝日新聞記者

「家庭には政治を持ち込みたくないんだ」

安倍晋三首相、菅義偉官房長官に結婚報告を終えた自民党の小泉進次郎衆院議員(左)とアナウンサーの滝川クリステルさん(右)=2019年8月7日、首相官邸
 小泉進次郎氏と、フリーアナウンサーの滝川クリステルさんが結婚を発表した。

 この結婚には、祝福と嫉妬とで様々な評価が渦巻いているし、首相官邸で発表するスタイルの是非も問われるべきだろう。

 私には、進次郎氏を取材した政治記者として、そして同世代の女性として、二人に期待したいことがある。「政治家の妻」としての周囲からの期待を大いに裏切ってほしいのだ。

 4年ほど前のことだが、進次郎氏が自分の結婚観について、話してくれたことがある。記事に書かれることを前提に話したわけではないが、ずいぶん前のことでもあるし、今回、書くことを許してくれると思う。

 そのとき彼は「家庭には政治を持ち込みたくないんだ」と語った。家に帰って妻と政治の話をしたり、妻を政治に巻き込んだりはしたくない、という話だった。強い記憶として今でも残っている。

 当時は「それも一つの理想かもしれないな」としか思わなかったが、今、こうして妻となる人が具体的に現れると、改めて、どんな家庭になるのだろうかと考えた。

「私の選挙に妻が出てくることはない」

 8月7日夜の横須賀市で、報道陣を前に進次郎氏はこう語った。

「私の選挙に妻が出てくることはない」
「政治家の奥さんは大変という、世の中の見方を変えないと、『政治家に(なりたい)』という人も出てこない」
「政治家の妻という前に、滝川クリステルさんという一個人としての幸せがあればいい」

 政治家の妻といえば、週末だけ選挙区に帰ってくる夫の代わりに、地元での様々な政治活動を期待されるのが一般的だ。夫の代わりに会合に顔を出す。時には、何かを頼まれることもあるだろう。

 選挙となれば、走り回って頭を下げ、マイクを持って人前で演説をする。選挙中に政治家事務所に行けば、「本人の票は何票。奥さんの人気票で何票」と、冗談とも本気ともつかない話を聞かされることもしばしばだった。

 妻は、政治家である夫を支えて当然、というのが、政治家本人、あるいはその支援者の間に根強く残っているのが政治の世界だ。進次郎氏は政治家として恵まれた環境にいるからこそ、他に先駆けて、新しい「政治家の妻」の姿を示すことができるはずだ。

石碑を囲んで卒業生らと記念撮影する小泉純一郎・元首相(中央)=横須賀市馬堀町4丁目

「一般の家庭に嫁いだのとは少し訳が違いました」

 進次郎氏には普通の政治家以上に、「家庭に政治は持ち込みたくない」と思う理由があったのだろうと思う。それは彼が育った家庭にあると私は考えている。

 進次郎氏が幼い時、父である純一郎氏は離婚し、彼は父の元で育てられた。

 進次郎氏の母親であり、純一郎氏の元妻である、宮本佳代子さんが、2016年11月、女性ファッション誌「precious」で自身の人生について語っている。

 宮本さんは、22歳で小泉家に嫁いだ後、長男で俳優の孝太郎氏、次男の進次郎氏を出産。3人目を妊娠中に離婚した。

 当時27歳。シングルマザーとして、働きながら男の子一人を育てた。三男がまだ5、6歳の頃に、純一郎氏の選挙ポスターを見つけ、「これがパパよ」と言ってポスターと一緒に息子の写真を撮ったエピソードなども紹介されている。

 今よりもシングルマザーへの風当たりが強い時代に、子どもを抱えて必死に働いてきた生き方は、女性の共感を呼ぶのだろう。連載はそれから2017年10月まで続いた。

 離婚の理由については、「代々政治家の家に嫁ぎましたから、一般の家庭に嫁いだのとは少し訳が違いました。そして、別れざるを得ない宿命と運命があったのだと思っています」と触れるのみだ。

 政治一家という特異な事情の中で、母親と離れて育った進次郎氏。「家庭に政治を持ち込みたくない」という感覚は、自分の生い立ちも影響しているのだろう。

「形にとらわれない、自分のスタイル」

 インタビューに応じる2人の様子をテレビ画面で見ながら、私は、従来のような「政治家の妻」像を打ち破ってほしいと強く願った。

 フリーアナウンサーが特別だとは思わない。進次郎氏が特別な政治家だとも思わない。誰であろうと、どんな仕事であろうと、夫も、妻も、それぞれの生き方を生きてほしい。

 周回遅れの政治を変えてほしい。私は心からそう願う。

 滝川さんは「形にとらわれない、自分のスタイル」でいきたいと語っている。

 よもや、選挙中にマイクを握ったり、当選後のバンザイでは隣で頭を下げたりといった、「政治家の妻」を演じることはないと思いたい。ましてや、公人と私人の境を曖昧にしながら、怪しい陳情を受けるようなマネだけは絶対にやめてほしい。

 女性の2人に1人が働く時代だ。夫の仕事を陰で支える妻が理想とされるような政治の世界は、社会から取り残される一方だ。

首相官邸で結婚を発表する自民党の小泉進次郎衆院議員(左)とアナウンサーの滝川クリステルさん=2019年8月7日

「政治家、小泉進次郎から、人間、小泉進次郎にさせてくれる存在」

「私は、必ず新郎新婦に3人以上の子どもを産み育てて頂きたいとお願いする」(自民党の桜田義孝氏)
「0~3歳児の赤ちゃんにパパとママ、どっちが好きか聞けば、どう考えたってママがいいに決まっている」(自民党の萩生田光一氏)
「この6年間で(候補者が)何をしてきたのか。一番大きな功績は、子どもをつくったこと」(自民党の三ツ矢憲生氏)

 この間、男性政治家から、時代錯誤としか言いようのない発言が相次いだ。こうした発言がなくならないのは、政治家の感覚が時代遅れだからだろう。

 選択的夫婦別姓、同性婚など、社会のニーズに、政治家の意識が追いついていないのが現状だ。古くからの「政治家の妻」像を壊すことで、政治の変化に期待したい。

 最後に、女性の立場として気になったことが一つ。

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