制約だらけで歪んだ制度の是正が必要だ
2019年08月30日
今回の参議院選挙でも、候補者に関する様々な噂が駆け巡った。まことしやかに言われたのが「●●候補と××候補の不倫スキャンダル報道が選挙前に出る」というものだった。それが正しかろうとそうでなかろうと、スキャンダルを抱えた候補者や陣営は実際に選挙が始まれば胸をなで下ろす。選挙に入ってからのこうした報道等は公職選挙法上の「自由選挙妨害罪」にあたる可能性があり、おいそれと報道できなくなるからである。
ところが、その「常識」を覆したケースがある。2016年の東京都知事選挙での鳥越俊太郎候補に関する報道である。選挙期間中に有力候補者がスキャンダルが報じられるというのは、それまではなかった話である。
週刊誌の報道に限らず、SNSの時代に入りツイッターやフェイスブック等SNSで正誤の確認がしにくい情報が大量に上がってくる。虚偽が流れたらどうするのか等の問題も国会で議論となったが、瞬時にエビデンスをつけて反撃することも可能となるなど、一つの選挙を超えるごとに候補者も有権者も学習し、戦い方も心得てきているようにも見える。
ただ、否定も肯定も候補者自身にそれなりのフォロワー等がいれば別だが、そうでない場合はSNSの記事等も選挙サイトや、そこから流れる検索エンジンに掲載されるか否かでその広がりは変わる。今後はむしろ影響力があるサイトに掲載される、もしくはシェアされるような場所にコンテンツをいかにあげられるかが勝敗を分ける要因になるかもしれない。
ただ、懸念を持ったのは選挙サイトでの取り上げ方だ。一般のインターネット利用者には選挙サイトは候補者を一見平等に扱っているように見えるが、実際は違う。統一地方選挙の際、ある有力選挙サイトの候補者一覧に自分たちが掲載されていないことに焦った候補者たちが問い合わせると、掲載されるためには基本料金3万円を払わないと名前も、顔写真も掲載されないことがわかった。候補たちは3万円を振り込もうとしたが、事務作業が追いつかず、反映されるのは選挙後だと言われた。当然だが、追加サービスを求めると10万円、20万円と課金されるシステムだった。選挙における「平等性」の担保は意外に難しい部分もあるとの認識は持っていなければならないだろう。
選挙の候補者を決めるときに各政党の担当者がツイッター等の「フォロワー数」を気にして見るようになったのはいつ頃からだろうか。
インターネット選挙が行われたのは2013年の参議院選挙。2014年の衆議院選挙ではネットを使って発信を行う候補者はそう多くなかったと思う。2016年の参議院選挙を経て6年後の今年は位相が違った。SNSの活用は「選択科目」から「必修科目」となり、当落の決め手とさえなり得るほどに大きな武器になることが証明されたともいえよう。
れいわ新選組もN国党も、ネットでの配信がなければその存在が届く範囲は限定的だっただろう。youtubeでいつでもどこでも繰り返し演説や政見放送等が見られるからこそ「拡散」し、具体的な投票行動につながったのだ。
もちろん参議院選挙中にもSNSをどう使うか、各陣営ともに「正解」を持っていたわけではないと思う。SNSは告知ツールとして重要な役目を果たす一方で、途中で予定が変更された場合、これまでであれば陣営の都合だけで動くことができたが、変更告知を行わないと有権者を待たせたままになる。実際、「行ったのに誰もいなかった」という苦情は少なくなく、便利な一方でそのフォローに手間がかかるようになっている。
SNSは有権者との双方向コミュニケーションツールだ。だからこそ、書き込みは励ましばかりではなく、批判もくる。ときには悪意に満ちた言葉もある。しかしそういうときにどう返すのか。スルーするか、切り返すかというのも、実は有権者は静かにスマホの画面を見てチェックしているのである。
この選挙では「ネットドブ板選挙」という言葉をあちこちで聞いた。「ドブ板選挙」とは、候補者が各戸を一軒一軒ドブ板を渡りながら回ったことから名がついた選挙戦術である。ありとあらゆる会合に顔を出し、飲みたくない酒も飲んで握手をし、名刺を渡し、徹底的に有権者と触れ合うのである。ネットにもドブ板選挙的戦術をとる候補者たちが出てきたのである。
ただ、SNSを選挙で活用しようとしたならば、相当なマメさが大事となる。当然だが、候補者は街頭で演説していることが多いので、SNSの発信は時間的に難しい。しかし、朝食の合間やちょっとした休憩時間を使ってこまめに返信していると、そこからリツイートされ多くの人の目に触れるようになる等、効果は確かにあるとも感じた。
認められたインターネット選挙ではメールに比してSNSは各内容や発信先等を気にすることはないため、かなり楽とは言え、レスポンスが瞬時につき、そのやり取りを第三者が眺めると言う図式は、ある意味止まった媒体であるビラ等よりも良しにつけ悪しきにつけ爆発力がある。
ただ「時間」が限られていると言うことは、言葉足らずや誤解もあり、候補者自身の発信が思わぬ炎上を生むこともある。関東圏のある候補者は、facebookは本人発信が禁止され、本人に成り代わったスタッフが発信を続けた。Twitterについては選対幹部が内容をチェックし、許可を得なければ流さないと言った状況となったと言う。本人アカウントで発信する場合、「スタッフより」と明示する場合もあるが、そうでない場合もある。書き手は候補者本人と会話していると思い込んでいるので、どこか滑稽な感じもしないではない。
党が出している政策内容より踏み込んで「消費税ゼロ」を言った立憲民主党の石垣のりこ候補者(宮城選挙区)は、党の支持者内での炎上を招いたがそれを押し通して勝利した。一般論になるが、炎上したことで知名度が格段に上がることは決して選挙にマイナスではないだろう。
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