ちらつく“悪しきリベラリスト”の影。国内問題を国際問題化する政治手法にも危うさ
2019年08月16日
私は韓国の文在寅大統領の言動を、2年前の就任以来、格別の関心をもって観察してきた。特に最近では、彼が取り返しのつかない事態を招くのではないかと、目を離せないできている。
8月2日の強硬発言が「凶」と出たからか、注目された光復節(8月15日)演説は一転して、日本に対話を呼びかける融和路線となった。しかし、罵倒した直後に握手を求めても、素直に応じる人はいない。それどころか、文大統領が状況によってカメレオンのように変わる“状況主義者”であることが一層明白になったように見える。
現在の不幸な“日韓問題”の核心は“文在寅問題”に他ならないと、私は受け止めざるを得ない。
政治指導者の言動を律するのはその性格。かつて、フランスのドゴール大統領は、政治家にとって“性格”の持つ重い意味を強調した。思想と行動も、その政治家が持つ性格と分かちがたく結びついているというのだ。
とすれば、最近の文大統領の途方もない言動は、彼自身の“性格”に発するところが大きいのではないか。
先述した8月2日、国の内外に公開された緊急閣僚会議で、彼はこう発言していた。
「加害者の日本が盗っ人猛々(たけだけ)しく大声をあげている」
韓国語でどう言っているのか、英語にどう訳されたのかは知らない。しかし、言葉の低劣さにさほどの違いはないだろう。
文大統領の独特の政治手法は、国内問題や二国間問題をあえて国際問題化すること。私はかねてそう思ってきていたが、今回はそうした認識が間違っていないことがはっきり確認された。
「今の韓国は過去の韓国ではない」から、「われわれは二度と日本に負けない」。
「今後起こる事態の責任は全面的に日本政府にあることをはっきり警告する」
一体どんな“事態”なのか。「日本も大きな被害を受けなければならない」と言われても、何のことか釈然としない。文大統領のこうした曖昧(あいまい)な発言には、驚くばかりだ。
その3日後、文大統領は政権幹部の会合を公開し、次のようにも発言している。
「北朝鮮との経済協力で平和経済を実現し日本に追いつく」。本来は「日本に追いつく」のが目的ではなく、「国民生活を豊かにする」ことこそが韓国経済の目標だろう。
われわれは、非核化された南北が統一され、自由で民主的な国家が生まれるなら、心から拍手をする。経済で追いつかれ、追いこされることがあっても気にはしない。そこから未来志向の日韓友好が実現すれば、東アジアの要としての役割を果たすことができるはずだ。
私は文氏が大統領に就任した時、彼の活躍によってより自由でより民主的な韓国が生まれることを期待した一人である。それは彼が長年にわたって掲げてきた、「市民」「人権」「平和」などの旗印のせいでもある。
とはいえ、公然と彼を評価しなかったのは、“悪しきリベラリスト”ではないかという疑念がどうしても消えなかったからだ。たとえて言えば、日本の民主党政権幹部に抱いたのと同様の不安を、文大統領に対して抱いていたのである。
文大統領は決して日本を嫌いなのではないだろう。むしろ逆かもしれない。そうでなければ、娘さんを日本の大学に留学などさせないし、奥さんの茶道にも理解を示さないだろう。結局、文大統領は「反日」姿勢によって、自分の政治的立場を強めようとしているだけではないか?
韓国では、来年2月に総選挙が予定されている。この総選挙は文大統領にとってはもちろん、与党「共に民主党」にとっても死活的に重要な政治決戦である。この選挙で憎き保守派の野党を叩(たた)きのめし、二度と立ち上がれないようにしなくてはならない。そのために、彼は夜も眠れないほど追いつめられているのだろう。
しかし、現在のようにいたずらに「反日」姿勢を強めることは、逆に文大統領を弱体化させるのではないか。本当の事情が理解されるに従って、頼みの国際世論の潮目が大きく変わり、文政権は窮地に追い込まれるだろう。それはもう始まっている。
似非(えせ)リベラリスト、悪しきリベラリストは、人権、市民、平和、福祉など、誰も反対できない旗を高く掲げながら、自己の権勢欲を満たすことを最優先にして動く人のことである。
文大統領には、そんな似非リベラリストの兆候が表れているように見える。
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