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日韓関係修復には早期の首脳会談が必要だ

文在寅大統領の冷静な演説を受けて日本政府がとるべき道は

登 誠一郎 社団法人 安保政策研究会理事、元内閣外政審議室長

韓国の文在寅大統領(左)を出迎える安倍晋三首相=2019年6月28日、大阪市住之江区

 韓国に対する輸出管理の強化措置の発表以来2ヶ月近くが経過し、日韓関係は戦後最悪とまで言われる状況まで落ち込んでいる中で、8月15日の韓国の光復節を迎えた。文大統領の演説は韓国国内の反日感情をこれ以上刺激する内容ではなく、大変冷静なものであったことを評価したい。

 さらに日本に向けて、「日本が対話と協力の道に踏み出したら、私たちは喜んで手を握るだろう」と述べたことは注目される。

 これを受けて、冷却した日韓関係を抜本的に改善するために、日本側として早急に行うべきことを考えてみたい。

1. 日韓首脳会談の早急な実現

(1)日本政府が7月1日に韓国に対する輸出管理を強化する方針を決定した最大の理由は、日韓関係の根本である日韓基本条約と請求権協定の意義を危うくするような韓国大法院の徴用工判決のもたらした問題を解決すべく、韓国側に「圧力」をかけることであったことは疑いの余地がない。

 しかしながら結果はこれまでのところ、政府の思惑とは真逆に、徴用工問題の解決どころか、その根底にある歴史認識について日韓間の溝を一層深め、戦後最悪とも言われる状態まで落ち込んだことは、誠に由々しき事態と言わざるを得ない。

 このまま推移すると、韓国国内の知日派、保守派の発言力は減少して、国内が反日で固まり、韓国を益々北朝鮮及び中国の方に追いやる結果を招く可能性が強い。

 そして万が一、核を保有する形での南北統一に進むとなると、日本にとっては正に悪夢と言わざるをえない。

(2)徴用工問題及びその背景にある歴史認識について日韓両国間の溝を埋めることができるのは両首脳による会談以外にはない。もちろん外相会談やハイレベルの事務方折衝によりお膳立てをすることは必要だが、高度にセンシチブな歴史認識の再確認は首脳でしか合意できない。

 その合意の基礎は、1998年の小渕総理と金大中大統領による日韓共同宣言にある。

 この宣言の核心部分は、日本側が「韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたことに対し、痛切な反省とお詫び」を述べたのに対して、韓国側は「これを評価するとともに、両国民が過去の不幸な歴史を乗り越えて、和解に基づいた未来志向的な関係を発展させるためにお互いに努力する」必要を述べた、という項目である。

 安倍総理と文大統領は首脳会談を行い、両国民を代表してこの歴史認識を再確認する新たな共同声明を発出すべきである。

(3)この首脳会談を開く機会はいつでもある。国際会議出席の機会であれば、9月初めのウラジオストックにおける東方経済フォーラムは準備が間に合わないとしても、下旬の国連総会では十分に会談の機会は作れる。

 さらに相手国を訪問するのであれば、文大統領は国際会議出席以外ではまだ日本を訪問していない、などというプロトコルにこだわることなく、安倍総理の方から4年ぶりとなるソウル訪問を持ちかけて良いのではないか。

 とにかく現状のような日韓両国民間の相互不信が続くことは、東アジアの安全保障にとって極めて危険な状態である。

 さらに安倍総理がもし北朝鮮との国交正常化のために平壌への電撃訪問を考えているとしたら、それより以前にソウルを訪問して文大統領と意思疎通を図っておくことが必須である。

2.輸出管理強化の具体的内容と影響の説明

(1)7月初めに発表された日本の対韓国輸出管理強化措置はその内容が極めて複雑であり、日本国内でも、ましてや韓国においてはそれを正確に理解している人は、ごく少数の輸出入関係者に限られると思われる。

 まず規制リストについては、対象とされた3品目(フッ化水素、フッ化ポリイミド、レジスト)の全てが個別許可になったのではなく、このうち輸出貿易管理令の下部規則である貨物省令に細くスペックが示されているものに限り個別許可の対象となったのである。

 その割合は、韓国が輸入の90パーセントを日本に依存していると言われる3品目のうち、高度な性能を有するごく一部に過ぎず、今回の措置が韓国の半導体製造に及ぼす影響はある程度限定的ともいえよう。

 政府はこの影響について、日本国民及び韓国側に正確に説明すべきである。さらに個別審査の対象としたものについては、審査要員の増員なども手配して、審査期間をできる限り短縮し、サプライチェーンの停滞を避ける様努めることが望ましい。

(2)規制リストに規定されている武器、先端素材、コンピューターなどの15分野の品目以外で、戦略兵器などの製造、開発に使用される恐れのある工作機械など多数の品目はキャッチオール規制の対象となっており、カテゴリーA(旧ホワイト国)の諸国向けを除き、輸出の個別許可を得る必要がある。

 韓国は今回の措置でカテゴリーBに格下げになったので輸出手続きに膨大な手間と時間を要することになったのかと思ったら、元経産省輸出管理部長の細川氏の説明によると必ずしもそうとは限らないようだ。即ちホワイト国以外の国への輸出でも、「特別一般包括許可」という制度を用いると実際問題として輸出が包括的に許可されるという。

 ただしこの制度を利用するためには、輸出業者は包括管理内部規程及び自己管理チェックリストなどを提出した上で経産省当局による実地検査を受ける必要がある。これが輸出にどれほどの障害となるかは判然としないが、わざわざホワイト国から外すことは、実際の輸出抑制効果があると判断したからであろう。政府はこの点も説明すべきである。

(3)日本政府が一旦決定した措置を取り消すことはあり得ないし、この状況では決してそれをすべきではない。日本側は韓国側に対して、世界の安全保障のために日韓を含むすべての関係国が輸出管理を一層効果的に実施する必要性を説き、日本も今回の措置が韓国経済に及ぼす影響が出来るだけ小さくなるよう慎重な運用を図ることを真摯に説明すべきである。

 また日本政府は今回の措置の正確な内容とその影響の態度について、国際社会に明確に説明しなければならない。

首脳会談前に韓国の文在寅大統領(右)と握手する安倍晋三首相=2018年9月25日、ニューヨーク

3.徴用工問題解決の糸口

(1)今回の日韓間の衝突の最大の原因が徴用工に関する韓国大法院の判決にあることは誰も否定しない。日本政府がとった輸出管理強化措置もそのための苦肉の策であったが、これは完全に裏目に出た。

 さらに言えば、もしこの措置が韓国側に影響を与えるとしたら、その結果として韓国が取る措置は、自国の輸出管理の抜本的な改善であって、「日本の圧力に屈して」徴用工問題で譲歩する対応を取ることは100%あり得ない。

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