市川速水(いちかわ・はやみ) 朝日新聞編集委員
1960年生まれ。一橋大学法学部卒。東京社会部、香港返還(1997年)時の香港特派員。ソウル支局長時代は北朝鮮の核疑惑をめぐる6者協議を取材。中国総局長(北京)時代には習近平国家主席(当時副主席)と会見。2016年9月から現職。著書に「皇室報道」、対談集「朝日vs.産経 ソウル発」(いずれも朝日新聞社)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「光復節」演説を読み解く/埋まらない溝の打開求める
日韓が貿易をめぐる経済報復の応酬を繰り広げるなか、2019年8月15日、韓国が植民地支配から解放された日を記念する「光復節」で文在寅(ムン・ジェイン)大統領が演説した。
ここ数カ月間の激しい日本攻撃は影を潜め、日本の歴史認識への批判を避け、国内外に冷静な対応と和解を求める異例の内容だった。
過去の演説と比較しながら、文政権の姿勢の変化を読み解いてみる。
韓国の大統領にとって、光復節と3月1日の独立運動を記念する「3・1節」の演説は、国民の民族意識を鼓舞する最も重要な演説の機会だ。
今回の光復節式典は、ソウルから離れた忠清南道・天安(チョナン)の独立記念館で行われた。
大統領就任以来、光復節演説は3回目になるが、2017年が青瓦台(大統領府)に近いソウル中心部、2018年は日本の植民地時代に軍事基地があった竜山(ヨンサン)だった。文氏は、竜山を「日本の軍事基地であり、朝鮮を搾取し支配していた核心だった」と説明した。
今回の独立記念館は、植民地支配下の独立運動の歴史と顕彰に重きを置く主に国内向けの歴史博物館。その意味で最も民族的ともいえるが、その場所の選択、さらに白っぽい韓服(ハンボク)を着て十分に民族色を出す代わりに、演説内容は控えめにバランスをとった形だ。