「光復節」演説を読み解く/埋まらない溝の打開求める
2019年08月15日
日韓が貿易をめぐる経済報復の応酬を繰り広げるなか、2019年8月15日、韓国が植民地支配から解放された日を記念する「光復節」で文在寅(ムン・ジェイン)大統領が演説した。
ここ数カ月間の激しい日本攻撃は影を潜め、日本の歴史認識への批判を避け、国内外に冷静な対応と和解を求める異例の内容だった。
過去の演説と比較しながら、文政権の姿勢の変化を読み解いてみる。
韓国の大統領にとって、光復節と3月1日の独立運動を記念する「3・1節」の演説は、国民の民族意識を鼓舞する最も重要な演説の機会だ。
今回の光復節式典は、ソウルから離れた忠清南道・天安(チョナン)の独立記念館で行われた。
大統領就任以来、光復節演説は3回目になるが、2017年が青瓦台(大統領府)に近いソウル中心部、2018年は日本の植民地時代に軍事基地があった竜山(ヨンサン)だった。文氏は、竜山を「日本の軍事基地であり、朝鮮を搾取し支配していた核心だった」と説明した。
今回の独立記念館は、植民地支配下の独立運動の歴史と顕彰に重きを置く主に国内向けの歴史博物館。その意味で最も民族的ともいえるが、その場所の選択、さらに白っぽい韓服(ハンボク)を着て十分に民族色を出す代わりに、演説内容は控えめにバランスをとった形だ。
バランス感は演説の随所に表れている。
2018年8月の光復節演説では、冒頭に「親日の歴史は、決して私たちの歴史の主流ではなかった」と、建国以来の歴史の一部を否定した。さらに「キャンドル革命で民主主義をよみがえらせ、全世界を驚嘆させた。それが今日の大韓民国の姿だ」と自賛した。
2017年8月の演説でも文氏は冒頭、「キャンドル革命で国民主権の時代が開かれた最初の光復節だ」と述べている。
これは、1948年の建国以来、軍事独裁政権など「国民主権」とはいえなかった時代があった、と一貫性に疑義を挟むものだ。
今回の文演説は、口癖の「キャンドル革命」にも「国民主権」にも触れなかった。
このことは、単に二つの名詞が出てこなかった以上に深い意味を含む。
キャンドル革命で国民主権をやっと取り戻した→過去の保守・独裁政権下は国民主権ではなく、植民地時代の親日派が引き続き政権を担ったため民族の正統性がなかった→1965年の日韓基本条約、日韓請求権協定は正統性のない政権が結んだものだから、これも正統性に欠ける→戦争被害者への賠償問題は今もなお解決していない――。
こんな文脈で、文氏は大統領就任以来、繰り返し国内の親日の清算を呼びかけ、植民地支配の清算を訴えてきた。慰安婦問題、徴用工裁判問題を未解決とするのも、この文脈に連なるといえる。
民族独立運動と親日清算の関係性をより明確にしたのが、今回の演説の5カ月前、2019年3月の「3・1節」演説だった。次のように述べた。
「親日残滓(ざんし)の清算はあまりにも長く先延ばしにされた宿題だ……誤った過去を省察するとき、我々は共に未来に向かって進むことができる…親日残滓の清算も、外交も未来志向的に行われなければならない…親日残滓の清算とは、親日は反省すべき、独立運動は礼遇を受けるべきという最も単純な価値を立て直すことだ。この単純な真実が正義であり、公正な国の始まりだ」
文氏の言う「未来志向」とは、親日問題を清算してこそ成り立ち、歴史の枠組みをいったんリセットしてから成り立つもので、決して過去に目をつぶるわけにはいかない。
さらに、文政権は、3・1独立運動が起きた100年前とはつながっているが、軍事独裁政権の積み重ねは「空白期」ととらえ、独立運動と共通の地盤にあることを明確にしてきた。
今回、文氏は「キャンドル革命」と「国民主権」を封印することによって、親日にも歴史認識にも触れない流れをつくり、いくつか、「楔(くさび)」とも「まき餌」ともとれる表現で日本を評した。
「日本の不当な輸出規制に対抗して、私たちは責任ある経済大国への道を歩いていく」と、簡潔に既存の立場を表明する一方で、先の大戦が終わった日を「日本の国民も軍国主義の抑圧から脱し、侵略戦争から解放された」と述べ、日本の政権と日本人を明確に区別した。
また、戦後の日本の歴史認識に触れない代わりに、「私たちは過去にとどまらず日本との安全保障・経済協力を続けてきた。日本と一緒に植民地時代の被害者たちの苦痛を実質的に治癒し、しっかり手をつなぐ立場を堅持してきた」と戦後の日韓の歩みを肯定的に捉えた。
さらに、日本による「輸出ホワイト国」除外を念頭に「先に成長した国が、後を追って成長する国のはしごを蹴飛ばしてはいけない」としつつも、「今も日本が対話と協力の道を進むのであれば私たちは喜んで手を握る。公正に貿易し、協力する東アジアを一緒に作って行くつもりだ」と、これ以上の報復合戦を望まない姿勢を示したのだ。
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