南スーダン野球初のキャプテン。その名はジオン
野球人、アフリカをゆく(10)グローブ、バット、ボールを貸して通い合った心
友成晋也 一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構 代表理事
ひときわ熱心な17歳
彼の名前はジオン。17歳。
9月から10月にかけて、日曜日の練習への参加者が週ごとに増えていったが、毎週初めて参加する子がいるために、なかなか顔と名前が覚えられないでいた。そんな中にあって、ジオンは、最初のキャッチボールで衝撃の速球を投げた長身のエドワード君に次いで、名前と顔が一致した子だ。
「ジオン、よく来たね。久しぶり!」と声をかけ、握手をしようと手を差し伸べると、はにかんでちょっと視線をそらしつつ、「Welcome back(おかえりさない)」と言いながら手を出してきた。

最年長の17歳。ジオン君は積極的に質問する。
どちらかというと地味で控えめなタイプのジオンだが、彼を2番目に覚えた理由は、単にいつも早く来るからではない。強肩のエドワード君のようにきらりと光るものを持っているわけでもない。むしろ、身体が固いのか、動きがぎこちなくて、野球の動作になじむまで、まだまだ時間がかかりそうな不器用さを感じさせるくらいだ。
だが、ジオンは、いつもコーチの私の近くにきて、熱心に指導を受ける。一生懸命に話を聴き、何度も試してみようとする。
一言でいうと、「ひときわ熱心」。指導する側からすると、その反射熱を一番発しているのがジオンなのだ。
身長はすでに私より高く、175センチくらいだろうか。集まってくる子供たちが、10歳から17歳くらいまでの年齢層なので、年長者でもあり、練習中は現地語であるジュバアラビック(ジュバのアラビア語)でなにやら指示や指導をしているようにも見受けられる。
ジオンが現れて少し経つと、まるでそれが合図だったかのように、グラウンドの奥、ジュバ大学の塀を乗り越え、子供たちが少しずつ増えてきた。
「あれ~、ずいぶん集まってきましたねえ」と、予想が外れたのに、嬉しそうなイマニ。
「野球を待ちわびてくれてたんですかねえ」と、思わずほっとする私。時間が空いて、かえって彼らとの距離が近づいた気がした。
英語で説明する私。母語に翻訳するジオン

正しいボールの握り方を指導。ジオン君はいつも近くにいて技術習得に意欲的だ。

バッティング指導。目が動くと、動いているボールをとらえずらいので、頭をなるべく動かさないようにね、と説明。
子供たちが十数人集まったところで、この日の練習開始。まずは久しぶりという事もあり、二列に並んでキャッチボールをすることから始めた。まずはボールを捕り、投げるを繰り返したあと、全員を集めて、改めてキャッチボールのやり方についておさらいをする。ボールの握り方、腕の使い方、足の上げ方、相手の胸を狙って投げること、捕り方。そんな場面でジオンは、聞き漏らすまいとばかり、いつも私の近くに来て聴いている。
続いて、みんなをホームベースの近くに集め、バットをもってバッティングの基本を初めて教えた。バットの握り方、立ち方、足の位置、振るときの頭の位置。基本中の基本のみだが、ジオンは食いいるように見つめている。
そのまま早速バッティング練習に入った。全員をいったん守りにつかせて、順番に一人ずつバッターボックスに立たせる。イマニがピッチャーを務め、教わった通りに、次々と打席でチャレンジしていく。
影がだいぶ長く見える時間になってきたところで、人数は20人くらいに増えていた。日暮れ時で、あまり時間がないが、やはり野球は試合をしてなんぼ。せっかく試合できる人数になったので、ゲームの楽しさを味わってもらおうと思い、もう一度子供たちを集めた。今日初めてきた子もちらほらとおり、野球の基本的なルールから説明しないといけない。
おなじみ野球ボードを取り出し、説明したものの、私の説明は英語。南スーダンの公用語は英語だが、子供たちは必ずしも英語が得意な子ばかりではない。特に小学生くらいになると、母語のジュバアラビックでないと通じない子もいる。
そこで、ジオンに隣に来るように指示し、私の英語でのルール説明を、改めてジュバアラビックで説明してもらった。聴いている子供たちには、やはり母語だと通じている様子が見て取れた。
しかし、実際に試合をやってみると、打って一塁に走るところまでは理解しているようだが、ベースを踏まなかったり、打球の行方に構わずひたすら一周しようとしたり、捕っても頓珍漢なところにボールを投げたりと、相変わらずしっちゃかめっちゃかだった。そんな試合の中で、ジオンは自発的に、低学年の子供たちに、自ら教わった構え方やバットの握り方を、改めて教えていた。