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南スーダン野球初のキャプテン。その名はジオン

野球人、アフリカをゆく(10)グローブ、バット、ボールを貸して通い合った心

友成晋也 一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構 代表理事

グローブ、ボール、バットを貸す

拡大不安を感じながらも、グローブ、バット、ボールを初めてジオンとその友達に渡す。
 終了後、みんなを集めてミーテイング。試合中の勘違いや間違いだったところを、野球ボードで復習する。最後に、グローブ、ボール、バットがなくなっていないかを確認し、段ボールに詰めた。車に積み込んで帰ろうと、段ボール箱を持ち上げようとした時、不意にジオンが話しかけてきた。

 「グローブを貸してくれませんか?」
 「えっ?」
 「平日、もっと練習したいんです。グローブとボールと。バットを貸してください」

 意表を突かれた突然の申し出だった。なんて嬉しい言葉だろう。すぐにいいぞ!と返したいところだ。

 こちらの都合で、毎週日曜日にしか練習できない、南スーダン野球団。今日で4回目の練習だが、これまでは毎回、荷物をグラウンドに持ってきて貸し出し、終わったら宿舎に持ち帰ってきた。

 道具を渡してあげたい。でも、一週間、ちゃんと貸した道具を保管できるのか。失くしたり、盗られたりしないのか。大事に扱わないのではないか。なにせ彼らの生活ぶりがわからない。どんなところにどんな人たちと住んでいるのか。周囲の環境はどうなのか。
危険度レベルの高いジュバで市内は歩行禁止。防弾車で移動しているような状況だ。彼らの居場所に行くこともままならない。

 そして、グローブ、ボール、バットは、日本から携行してきた貴重なもの。

 迷った。彼らを信じるにはまだ時期尚早ではないのか。しかし、この道具たちは、彼らが野球をやるためにもってきたものだ。

 だが、ほかならぬジオンの申し出だ。彼のまっすぐな目を見て、信じることにした。

「アフリカですからねえ……」

ジオン熱投。自らピッチャーもやるジオン君。
拡大
 「結局、今日も大盛況でしたね」と、宿舎に帰る防弾車の中で、イマニが声をかけてきた。考え事をしていて不意を突かれた私が「ええ」と気のない返事を返すと、イマニは構わずいつもの明るいテンションで「今日もまた少し野球の形に近づいたんじゃないですかね」と確認するかのようにいう。

 「イマニさん、少しは子供たちの名前と顔を覚えましたか?」と自分のことを棚に上げてちょっと挑発的に言うと、「あの赤シャツの子は積極的でいいですね」という。

 「ジオン君のことですよね。彼はすごく一生懸命でいいですよね。リーダーシップもあるし。彼がキャプテンみたいな存在になってくれそうですよね」

拡大初心者子供を手捕り足取りの指導するジオン君。ピッチャーはイマニ
 野球が根付いていくためには、野球が好きな人が増えていくことが必要だ。そして、団体競技である野球が発展するためには、リーダーシップのある人が核となってチームを引っ張っていかないといけない。これまでの私のアフリカにおける野球指導の経験では、ガーナでも、タンザニアでも、中心になるリーダー役がいた。

 そんな私の心を見抜くかのように、イマニが言う。

 「ジオン君は、南スーダン野球のキーパーソンかもしれないですね」

 「そうですよね。実は、今日、ジオンが道具を貸してほしいって言ってきたんですよ」

 そうためらいがちに言う私のテンションに合わせることなく、イマニは「ほお、ジオンはやる気あるなあ」と楽観的だ。

 「イマニさん、これは賭けなんです。次回、ちゃんともってきてくれるといいのですが」と思わず本音を漏らす私に、イマニは追い打ちをかけるように言う。

 「アフリカですからねえ…」

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筆者

友成晋也

友成晋也(ともなり・しんや) 一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構 代表理事

中学、高校、大学と野球一筋。慶應義塾大学卒業後、リクルートコスモス社勤務を経てJICA(独立行政法人国際協力機構)に転職。1996年からのJICAガーナ事務所在勤時代に、仕事の傍らガーナ野球代表チーム監督に就任し、オリンピックを目指す。帰国後、2003年にNPO法人アフリカ野球友の会を立ち上げ、以来17年にわたり野球を通じた国際交流、協力をアフリカ8カ国で展開。2014年には、タンザニアで二度目の代表監督に就任。2018年からJICA南スーダン事務所に勤務の傍ら、青少年野球チームを立ち上げ、指導を行っている。著書に『アフリカと白球』(文芸社)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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