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台湾「新政治」の現在から見るれいわ新選組の課題

カリスマリーダーのもとで党組織と政策をいかに整備していくが問われている

許仁碩 北海道大学法学研究科博士課程在籍(法社会学).コラムニスト

立法院占拠運動はひまわりがシンボルとなった=2014年3月26日、台北

 2014年3月、台湾の学生たちが台湾の国会にあたる立法院を占拠した「ひまわり運動」は、その後の台湾政界で「新政治」と呼ばれたブームにつながり、大きな期待と注目を集めた。ここでは、この5年間の台湾の「新政治」の経験を振り返り、日本の参議院議員選挙で脚光を浴びた、新党「れいわ新選組」のゆくえを占う参考にしてみたい。台湾の「新政治」とれいわ新選組には、いくつかの共通点がみられるからだ。

当事者性とカリスマ性で無党派層から支持

 2014年3月、立法院が「海峡両岸(台中)サービス貿易協定」を強行採決したことに抗議し、学生らによる立法院の占拠にまで発展した。この「ひまわり運動」と呼ばれた立法院の占拠は約3週間続き、3月30日の集会では50万人(主催者発表)が参加した。この大規模な運動をうけ、政府は協定の審査を断念し、成果を収めた運動は立法院から自主的に退去したのである。

 オキュパイは終わったが、大衆運動から生まれた波は収まっていなかった。同年11月の統一地方選で、運動が野党の追い風になり、与党国民党は大敗を喫し、首都.台北市長選では大差で無所属の柯文哲氏が勝利した。与党候補連勝文氏は元副総統連戦氏の息子であり、国民党の資金力で主流メディアの広告をほぼ独占していた。それに対し、柯氏は政策、組織面に当時の野党民進党の支持を受けながら、ネット中心に宣伝を展開し、「オープンな政府」、「本当に、変える」を訴え、若者を中心として無党派層から支持を集めた。

 柯氏の当選に続き、2016年1月の立法院選挙で、新政党「時代力量」は一挙に5議席(選挙区3、全国比例区2)を獲得した。これは、既成政党からの分党でもない完全な新党として、前人未到の快挙といわれた。「時代力量」という党名は、「時代」(ひまわりも含む一連の大衆運動)から生まれた「力」を意味する。「時代力量」は選挙区で民進党と連携を取りながら、運動と関わってきた弁護士、活動家や当事者などカリスマ性がある人物を立候補させ、民進党より進歩的な政策を打ち出し、「左から民進党を引っ張るわが党が必要」と訴え、フレッシュなイメージで柯氏を支持した若者や無党派層の票を得たのだ。

 ひまわり運動から数年の間、台湾政界に「新政治」といわれるブームが起きる。2016年1月、立法院選挙とのダブル選となった総統選挙で、民進党の蔡英文氏が国民党候補らを破る政権交代にもつながった。しかし「新政治」を代表する柯氏と「時代力量」は、その後シビアな試練に直面することになった。

イベント会場で柯文哲氏がスマホをカメラを掲げると、若者たちが一斉に集まる=2018年9月1日、台北

路線対立で空中分解の危機

 柯氏は2018年に再選を果たしたが、民進党から対立候補が立ったため、僅差での勝利になった。柯氏が中道路線を取るために親中、保守派に接近し、台湾独立志向の民進党支持者に不興を買ったからだ。ただ、それでも「柯ファン」と呼ばれる無党派支持層は「本音を言う政治家」や「有能な医師市長」という彼のカリスマ性を評価し、支持率は堅調さを維持している。

 そして、柯氏は2020年の国政選挙を目指し、「台湾民衆党」を結成した。ところが今年8月6日に開いた党大会では、二流の保守系議員や二世政ばかりが名を連ね、さらに国民党の総統予備選から脱落した郭台銘氏(元ホンハイ精密工業会長)、王金平氏(元立法院院長)と手を組むことが報じられた。5年前に大衆運動から生まれたいわゆる「新政治」はもはや面影すら見当たらないのだ。

 「時代力量」も危機を迎えている。2018年の地方議員選に戦果を挙げ、地方議会に新風を送り込んだと定評を得たものの、来年の国政選挙に民進党の蔡英文氏を支持し、共闘する件をめぐり、内紛が起きている。柯氏と同じく、「時代力量」の支持者には既成政党に不信感を持つ者が多いと見られているからだ。「時代力量」の元党主席・国会議員の黄国昌が代表する反共闘派は、民進党と一線を画しないと、議員票が柯新党(台湾民衆党)に流れるではないか、という危惧を強く抱いていると伝えられている。

 一方で、保守親中派になった柯氏を支持すべきではないと主張している(民進党との)共闘派もある。党の大黒柱である選挙区出身の立法院議員の林昶佐(フレディ・リム)氏と洪慈庸氏はその代表者である。二人とも早くも再選を決め、民進党と選挙区での候補一本化を協議した。林氏は8月1日に離党を公表した。その後、党評議会が開かれたものの、結論を出すことはできなかった。それを受け、両派の橋渡し役と見られる党主席邱顯智は、党内の結束を取れないことに責任を取る理由で、同月12日に党首を辞任した。翌日の8月13日に「最後まで粘るつもりだ」と言った洪氏も、「共倒れにならないように」と離党を発表した。2015年結党以来の2回目国政選挙を迎える節目に、「時代力量」はまさかの空中分解の窮地を迎えている。

 確かに、柯氏も「時代力量」も未だ相当な政治勢力を維持している。しかし、「新政治」という大義名分が失墜しつつあることは間違いない。その理由は、ポピュリズム的な戦略で政治勢力を建立した後、継続的な政党運営のための政策路線、党組織、選挙対策、この三つ課題をクリアしきれていないからと思われる。「れいわ新選組」いついても、同じような懸念が

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