花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授
在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。
ここが重要なところである。米国が創った自由民主主義体制は何故、戦後74年の長きにわたり維持され、世界の繁栄に貢献してきたか。それは、自由民主主義体制が「普遍的」だったからだ。普遍的とは何か。「万人がそこから利益を得る」ということだ。自由民主主義体制が維持され、自由貿易が堅持され、法の支配が確立されれば、万人が利益を得る。だからこそ、1971年、覇権国が秩序維持の責任を放棄した時も、自由民主主義体制は崩壊することなく維持され続けたのだ。どの国も自由民主主義体制が存続することを願った。それはこの体制が維持されることが「万人にとり利益」だったからだ。むろん、米国が秩序維持の責任を放棄したといっても、米国が自由民主主義体制に反する行動をとったわけではない。覇権国のみが秩序維持の責任を担っていたのが、米国を含めた西側全員で秩序維持にあたるようになっただけである。実に自由民主主義体制は「万人が利益を得る体制」であるが故に74年もの長きにわたり生きながらえたと言っていい。
その体制がトランプ政権により脅威にさらされている。壁を築き自国第一主義を掲げる。ディールを旨とし、米国の国益に沿わないと見るや「関税引き上げ」に訴える。自らをタリフ(関税)マンと言って憚らない。
そういう米国に対し、ドイツのメルケル首相は危機感をあらわにした。2017年5月、ミュンヘンで行った演説で「欧州はもはや、米国に安全を頼るわけにはいかない、自らは自らが守らなければならない」と述べた。同首相はまた、2019年ミュンヘン安全保障会議で「戦後の自由民主主義体制は経験したことがない脅威にさらされている、我々は多国間主義の堅持を確認しなければならない」と訴えた。多国間主義とは自国第一主義の反対概念だ。
ドイツの高級紙ツァイトの元共同発行人、テオ・ゾンマー氏は「我々は今、かつて経験したことのない危機に直面している。今日の世界秩序はかつてなかったほどの世界「無秩序」だ」と警告した。2018年、カナダのシャルルボア・サミットの席上、トランプ大統領を囲みメルケル首相他のG7首脳が詰め寄る写真が掲載され注目を集めたが、
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