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今こそ日本は「自由民主主義体制の旗手」の役割を

花田吉隆 元防衛大学校教授

首脳会談を前に握手するドイツのメルケル首相(左)と安倍晋三首相=2019年6月28日、大阪市住之江区、代表撮影

 戦後、米国は積極的に秩序構築に貢献した。それに先立つ第一次大戦後、米国は消極的だった。それが災いし、世界は第二次大戦へと突き進んだ。その轍を繰り返してはならない。米国が意図した戦後秩序は自由民主主義体制と言われる。二つの柱からなっていた。政治の国連と経済のブレトンウッズ体制だ。ブレトンウッズ体制はIMF、世界銀行、GATTから成る。しかしこれらは機構上の柱だ。最も重要なのが自由民主主義体制の根幹にある基本的価値である。自由、民主主義、自由貿易、法の支配、基本的人権の尊重等だ。これらの基本的価値が戦後、西側諸国に共有された。この基本的価値が土台となって自由民主主義体制が構築された。だからこれは、共通の価値を戴いた「価値同盟」だ。

長く維持されたブレトンウッズ体制

 このうち国連のたどった歴史は多くを語る必要がない。冷戦期、米ソが対立し、その最も重要な安全保障理事会が機能停止した。これに対し、ブレトンウッズ体制は1971年まで有効に機能し世界に繁栄をもたらした。貿易は拡大の一途をたどり、世界は高成長を謳歌した。ひとえに、ブレトンウッズ体制の存在が大きかった。そのブレトンウッズ体制が、1971年、ニクソン大統領による金ドル交換停止宣言により崩壊した時、誰もが世界経済の不安定化を予測した。それまで、いわゆる「覇権理論」が信じられていた。「秩序は覇権国が維持する。」その覇権国たる米国が秩序維持の責任を放棄した。

 しかし、この予測は幸運にも当たることがなかった。戦後秩序は覇権国の意向に関わりなく、維持され発展していった。EU、NAFTA等、多くのFTAが発足、発展し、世界貿易は以前にも増して拡大した。ドルは引き続き基軸通貨として機能した。つまり「秩序は覇権国が維持するのでなく、関係国が集まって維持する」。何故か。維持されることが関係国自身の利益だからだ。ブレトンウッズ体制は1971年以降も形を変え実質的に維持されていった。

普遍的だった自由民主主義体制

 ここが重要なところである。米国が創った自由民主主義体制は何故、戦後74年の長きにわたり維持され、世界の繁栄に貢献してきたか。それは、自由民主主義体制が「普遍的」だったからだ。普遍的とは何か。「万人がそこから利益を得る」ということだ。自由民主主義体制が維持され、自由貿易が堅持され、法の支配が確立されれば、万人が利益を得る。だからこそ、1971年、覇権国が秩序維持の責任を放棄した時も、自由民主主義体制は崩壊することなく維持され続けたのだ。どの国も自由民主主義体制が存続することを願った。それはこの体制が維持されることが「万人にとり利益」だったからだ。むろん、米国が秩序維持の責任を放棄したといっても、米国が自由民主主義体制に反する行動をとったわけではない。覇権国のみが秩序維持の責任を担っていたのが、米国を含めた西側全員で秩序維持にあたるようになっただけである。実に自由民主主義体制は「万人が利益を得る体制」であるが故に74年もの長きにわたり生きながらえたと言っていい。

トランプ政権による脅威

 その体制がトランプ政権により脅威にさらされている。壁を築き自国第一主義を掲げる。ディールを旨とし、米国の国益に沿わないと見るや「関税引き上げ」に訴える。自らをタリフ(関税)マンと言って憚らない。

 そういう米国に対し、ドイツのメルケル首相は危機感をあらわにした。2017年5月、ミュンヘンで行った演説で「欧州はもはや、米国に安全を頼るわけにはいかない、自らは自らが守らなければならない」と述べた。同首相はまた、2019年ミュンヘン安全保障会議で「戦後の自由民主主義体制は経験したことがない脅威にさらされている、我々は多国間主義の堅持を確認しなければならない」と訴えた。多国間主義とは自国第一主義の反対概念だ。

 ドイツの高級紙ツァイトの元共同発行人、テオ・ゾンマー氏は「我々は今、かつて経験したことのない危機に直面している。今日の世界秩序はかつてなかったほどの世界「無秩序」だ」と警告した。2018年、カナダのシャルルボア・サミットの席上、トランプ大統領を囲みメルケル首相他のG7首脳が詰め寄る写真が掲載され注目を集めたが、

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