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外国人看護師と一緒に働く時代に必要なこと

あるインドネシア人看護師は言った。「ジルバブを着けないことは下着で歩くのと同じ」

石川陽子 首都大学東京健康福祉学部准教授

異文化適応と多文化共生社会を推進する時代へ

 ここでは、EPAにより来日した看護師と受け入れ機関となる病院の看護管理者双方の視点から医療現場の多文化共生を考えていきたい。

 EPAの制度では、日本の文化・習慣に関する研修があり、受け入れ施設の管理者も「EPAに基づく看護師の指導者ガイドブック」(2014年に国際厚生事業団が作成)などを参考に外国人看護師を受け入れる準備をする。しかし、現実は書面から想像するよりも多くのバリエーションがある。

 そのひとつが宗教観だ。

 インドネシア人の87%がイスラム教徒といわれるが、彼(女)らの多くは宗教は人生の中で最も価値あるものと考えている。しかし、日本人のイスラム教に関する理解は彼(女)らの想像を絶するほど低い。

 2015年にシリアで起きた日本人の拘束・殺害事件直後は「イスラム教」というだけで「あー、テロリストね」と言われ傷ついたという経験をもつインドネシア人看護師は少なくない。

 ムスリム女性が頭髪を覆うための「ヒジャーブ」(インドネシアでは「ジルバブ」)の就業中の着用を禁止する施設もあるが、それがイスラム教徒にとって耐え難い苦痛となっていることをどれだけの日本人が想像できるだろうか。もちろん、すべてのムスリム女性がヒジャーブを着用している訳ではないが……。

外国人看護師拡大イメージ写真 dboystudio/shutterstock.com

 あるインドネシア人看護師は「ジルバブを着けないことは下着で歩くのと同じ」と語った。欧米ではヒジャーブの着用が女性の抑圧の象徴であるとして禁止され議論になっているが、日本の場合は外国人が職場で「特別視」されないために禁止していることが多い。「郷に入れば郷に従え」ということだ。

 管理者は「(ヒジャーブに付いている)ピンが落ちると患者に刺さって危険だから」「(ヒジャーブを被ると暑いので)ラマダン(断食)中に入浴介助をすると脱水になるから」と説明するが、ムスリムからは「マジックテープで止めている」「子どもの頃からもっと暑い環境でジルバブを身につけている」といった反論がある。

 男性ムスリムにとって重要とされる「金曜礼拝」に参加できないため帰国した、イスラム教徒なのに勤務時間に(患者を対象とした)病院のクリスマスパーティに参加することを求められて困った、というケースもある。彼(女)らにはクリスチャンでない日本人がクリスマスパーティを主催することが理解し難い。彼(女)らはこのような日本人の宗教観を徐々に受容していくものの、異教徒のイベントへの参加は大きな葛藤を生み仕事へのモチベーションにも影響を与えている。

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筆者

石川陽子

石川陽子(いしかわ・ようこ) 首都大学東京健康福祉学部准教授

東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻博士課程修了。看護師として病院勤務の後、アジア、アフリカで国際協力活動に携わる。2007年より現職。2012年から2017年に首都大学東京と東京都が連携し実施した「アジアと日本の将来を担う看護・介護人材の育成事業」でEPAにより来日した看護師に国家試験の学習支援を行った。研究テーマは看護師の国際移動、異文化看護。

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