
韓国の文在寅大統領(左)を出迎える安倍晋三首相=2019年6月28日、大阪市
8月23日、韓国は軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を日本側に通告した。
その日、私はソウルで日韓フォーラム(1993年に設立された日韓有識者の賢人会合)に参加しながら、どうしてここまで日韓関係は悪化してしまったのか、思いを巡らせていた。
安倍政権と文在寅政権の相互不信による一過性なものなのか、両国の政権が変われば元へ戻るのか。それとも、日韓の構造的問題が抜き差しならぬところまできて、もはや後戻りできないということか。
重大な危機を迎えた。日韓関係だけにとどまらず、日本の在り方やこの地域の平和と安定にとって大きな転機となるのかもしれない。
日韓の底にある深い意識
まず根底にある意識の問題だ。
韓国側にあるのは「日本にねじ伏せられるわけにはいかない」という原理主義的な強い思いだ。
韓国人がDNAとして持っているといわれる「恨(ハン)」の意識は、何百年にわたり明や清、日本など異民族に圧迫を受け日本には植民地支配をされた、そして植民被支配から脱したのも日本が太平洋戦争に敗戦したからで、自分たちの力ではなかったという歴史から生まれた恨み、つらみ、悲しみ、怒りだ。
本来この「恨」は中国にも向いてよいわけだが、中国は直接統治をせず、文化的にも優位にあるとみられ、韓国は貢いできた。
そこで「恨」は文化的劣位にあるわけではないのにさんざん痛めつけられ直接統治をされた日本に向く。とりわけ日本は清の支配をはねのけロシアの介入を封じ、長いプロセスを得て着々と朝鮮支配に至ったことから、今日でも日本に対する猜疑心は信じられないほど強い。
日本が輸出管理上の規制を強め、韓国を「ホワイト国」から外した時、文在寅政権は「日本は本気で韓国潰しに来た」と感じ、最早理屈を超えて対抗措置をうたなければならないという思いに駆られたのだろう。
GSOMIAは北朝鮮の脅威に抗するために日米韓の情報の流通をよくする目的であり、むしろ韓国の利益に適うわけで、何故自国の利益を損なう行動に出るのか、という疑問がだれの頭にも浮かぶ。
しかし韓国からすれば韓国の「本気度」を示すうえでは手段を選ばずという面があるのだろう。
日本にある意識の問題も深刻だ。
政府は否定するが、輸出管理の厳格化は韓国の理不尽な行動への対抗措置とみられたことは否定しえない。どの部局がこの決定を先導したかは承知しないが、その背景にあったのはおそらく「韓国になめられてたまるか」という理屈を超えた憤りだ。
私も1980年代に米国との経済摩擦の最前線にいた時経験したことだが、当時の通産省の血気盛んな若い官僚たちは「日本が技術的に優位にある、米国何するものぞ」といった一種のナショナリズムに燃えていた。