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韓国は信を失い、日本は礼を失った

田中均が示す日韓泥沼化の打開策

田中均 (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

拡大ソウル光化門広場で、日本政府の対韓輸出規制強化などに反対する集会に参加した人たち。「ノー安倍」のプラカードが一斉に掲げられた=2019年8月15日

国内政治の延長としての日韓関係

 そのような日韓のきわめて強い意識は潜在的にどの時代にもあったはずだ。

 しかし今日、そのような意識を後押しする国内の力は強く、問題はお互いをこん棒で殴り合うのを止めに入る力がないことだ。

 韓国の文在寅政権の支持者は86世代といわれ進歩主義的傾向が強い。60年代に生まれ80年代に大学生であった世代で、今や40代から50代の壮年世代であり文在寅大統領支持者の中核だ。

 これらの世代は古い世代と異なり、自分たちの力で民主主義を勝ち取ったという意識が強く、国内の保革対立はすさまじい。トランプ大統領はオバマ前大統領の成果をことごとく否定するが、文政権は前任の朴政権を目の敵にする。青瓦台で文在寅大統領の周りにいるのはこの人たちで、原理主義的な頑なさを持ち、おそらく外務省的な協調主義の入る余地はほとんどないのだろう。

 外務省の人事にも青瓦台の影響力は強い。

 日本も似通った面がある。圧倒的に強い安倍官邸の前に外務省的アプローチが入る余地があるのか疑問に思う。

 融和主義ということを言っている訳ではない。日韓二国間関係の悪化が地域に、対米関係に、そして地政学的要因からどのような意味合いを持つのか、時空を広げ、多角的包括的に戦略的判断を行うプロフェッショナルなアプローチが垣間見えないことを言っているのだ。

韓国は信頼をなくし日本は礼と建前をなくした

 韓国の友人が議論の中で、「韓国は信頼を失ったが、日本は礼儀や建前を失った」と漏らした。

 私も韓国が信頼を失ったのは、民主主義的なルールや国際社会のルールからかけ離れた行動を続けてきた結果、最早重要なパートナーたり得ないという認識が日本で深まってしまったからだと思う。

 一方「日本が礼儀や建前を失った」というのは、これまで日本は民主主義的規範や国際的規範に忠実に行動してきたが、今やそれをかなぐり捨てて、本音むき出しで行動していると見られているのではないか。

 相手によっては外交的礼譲に外れた行動も辞さない。そして自由貿易は日本が最も大事にしてきた概念であるが、それをトランプ的に政治安全保障の理由で阻害することを厭わない、ということを言っているのだろうか。

ここからどうするのか

 日韓がどんどん対立の悪循環を繰り返すことを厭わない勢力はいるのだろう。

 日韓双方の国内に強い反日感情や強い反韓感情に乗って政治的優位を固めようとするポピュリズム勢力がいる。韓国では来年4月は議会選挙だし、日本でも衆議院選挙は次の課題となっている。

 しかし外を見ると、北朝鮮は日韓の離反を自己に有利な事象とみるだろう。中国やロシアも日米韓の連携が形ばかりのものになることに不満を抱くはずがない。しかしそれが日韓双方の国益に資するとは到底考えられない。

 10月22日は国外からも首脳が参列する天皇即位の礼が予定される。韓国政府はGSOMIAの破棄を日本政府に通告したが、正式に終了するのは通告から三か月後の11月23日だ。

 これからの2~3か月は、悪循環を断ち切り、日韓関係を再構築する重要な期間と考えるべきではないか。この期間に新しいモメンタムを作らないとおそらく「信頼を喪失した韓国と礼儀を失った日本」は双方とも国際社会で孤立するだけではなく、不測の事態を招くリスクを高めることになってしまうのではないか。

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筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。2021年3月よりTwitter開始、毎日リアルタイムで発信中。(@TanakaDiplomat)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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