「賛成ではないです。でも……」 秋田で聞いた暮らしに根ざす様々な声
2019年08月30日
北朝鮮の弾道ミサイルに備える兵器として政府が導入を急ぐものの、配備候補地とされた秋田市で反対が強まっている「イージス・アショア」。その地に最も近い住宅街で子育て中の母親たちが集まり、意見を交わした。日本を守るためとはいえ、近所に「陸上配備型迎撃ミサイルシステム」が置かれたら……。暮らしに根ざす不安や悩みが次々と語られた。
8月25日の日曜午前9時半、秋田市の新屋勝平地区に住む母親たち十数人が地区のコミュニティーセンターに集まった。配備候補地の陸上自衛隊・新屋演習場から国道7号線を挟んで1キロほどの距離だ。
防衛省が6月上旬に住民への説明会を開いた際、職員の居眠りがばれて紛糾し、配備候補地の再調査につながったあの場所、と言えばおわかりだろうか。建物内には漫画やおもちゃを置く学童保育施設もあり、ご近所の公民館といったたたずまいだ。
広い和室に座布団が並ぶ会場の上座に、年配の男性らが並ぶ。「イージス・アショアの配備計画に関する若い世代の意見を聞く会」を主催した、新屋勝平地区振興会の役員らだ。
始まって40分が過ぎた。各町内会への割り当てで出席した母親たちからは意見はなかなか出ない。この日は日曜だったが、父親は仕事で家にいないのか、母親と一緒に来た小学校低学年ぐらいの子が二人いた。男の子はゲーム、女の子はお絵かきをして、時々ごろごろ。
「振興会としては、ここは住宅密集地だからだめなんだと強くアピールしていきたい。ぜひ若い人の声を聞かせていただきたい」と佐々木さんが四度目のお願いをすると、三人が順に小さく手を挙げた。
うち二人はアショア配備に反対で、「この地区を離れる人が出るのでは」「この地区以外は秋田市内でも関心がないのでは」といった不安を述べた。ただ、もう一人は家庭での会話を交え、もどかしさを語った。
「子どもが三人いますが、温度差があって。高校生の子はちょっと世界を見て、もう無理なんじゃないという諦めの言葉を出してました。沖縄(の米軍基地問題)もいくら反対しても結局は国で決まるんだから無理じゃない? どこかが犠牲にならなきゃいけないんでしょ? みたいな」
「小学生の子はミサイル発射のニュース速報で北朝鮮のことにすごく敏感になって、落ちる? 来る? って。大丈夫だよと言っても保証がなくて。いろいろ親として考えても、先行きがまだ見えないな……という意見です」
母親たちはまた静かになり、振興会の役員らの発言が続いた。2時間の予定が残り30分ほどになった。佐々木さんは改めて、「秋田市を動かし、市が動けば県が動くという考えで行動しています。地域の皆さんの支えがないと力が小さくなる」と発言を促した。
しばらく前に最初に発言した女性が、「皆さん手を挙げるのが難しいかもしれないので、マイクを回しては」と提案した。すると、母親たちは次々と語り出した。アショア配備に賛成の声はなかったが、単なる反対にとどまらない、深い思いを多くの人が明かした。
4人目の女性はこう話した。
「主人と話していますが、反対の意見ばかり先に出るので、賛成の意見の人を新聞で探しました。そしたら県南の方の市長さんだったか(※秋田市は秋田県央)、こういう世の中なんで、子どもを守るためにそういう基地が全くないのはおかしい、というのを読みました」
「それではっと気づきました。別に(政権与党の)自民党を推しているわけではないけど、(アショアの)基地があろうがなかろうが、飛んでくるものは飛んでくる。賛成ではないんだけど、あってもおかしくないと実際思いました」
この新屋勝平地区は戦後に秋田市のベッドタウンとして発展したが、少子高齢化への不安はご多分に漏れない。5人目の女性は「反対ではありますが、アショアがあそこに来ると県外から人がたくさん来て、地域が活性化するという意見を聞いたことがあります」と話した。
様々な意見が交錯していく。6人目の女性は、2年ほど前から地元へのアショア配備の可能性が報道されだしたことと、子どもたちが通う小学校の状況を重ね合わせ、「やっぱり反対」と述べた。
「6年生と3年生の子どもがいますが、3年生から下が3クラスしかない。4年生から上は4クラス。下の子が入学の時に先生に聞いたら、転校生が来て4クラスになると思うと言ったけど、3クラスのままです。主人と話して、アショアの影響もあるんじゃないかと」
8人目の女性は平易な言葉ながら、基地問題の本質を突いた。
「勉強不足だった」「人任せだった」「家族と話していきたい」など、この集まりに感謝する声も目立った。そんな中で、11人目の女性はすでに家庭で話し込んでいるようだった。
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