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北朝鮮の短距離弾道ミサイルは許されない

ミサイル発射実験への反応が弱い国際社会。トランプ米大統領の言動には疑問だらけ

田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

トランプ大統領がおかした間違い

拡大2019年7月25日、飛翔(ひしょう)体の発射実験を視察する金正恩朝鮮労働党委員長。朝鮮中央通信が報じた=朝鮮通信
 一連の発言のなかで、トランプ大統領は幾つか大きな間違いをおかしている。

 まず、国連決議の内容についてである。先述したように、北朝鮮はたとえ短距離であっても弾道ミサイルの発射実験を禁止されていること、米朝間の合意がいかなるものであっても、両国が国連に加盟している限り、安全保障理事会の決議が優先され、一義的にその制約を受けることを、トランプ大統領は理解していない。

 アメリカが一般加盟国であるならともかく、言わば筆頭の常任理事国として国連決議を主導した経緯を考えると、トランプ大統領の言動は到底受け入れられるものではない。

 短距離ミサイルならアメリカ本土に届かないから許容できるという姿勢も、大きな間違いである。

 専門家の間には、北朝鮮の今回の一連の実験について、「飛距離は200~600キロ程度なので、基本的に朝鮮半島用だ」という見方もあるようだ(毎日新聞8月22日朝刊)。しかし、ミサイル発射が現在の日韓、米韓、米中関係を牽制(けんせい)する政治的な効果を狙ったものと見るのは、はたして正しいか、疑問を禁じ得ない。むしろ、ミサイル性能の高度化を試すという点に注目するほうがよいと私は思う。

 万が一、アメリカと北朝鮮が戦端を開くことになれば、在日米軍基地が真っ先に標的になると見るのが常識だろう。短・中距離ミサイルの性能を高めれば、米国艦船はもちろん、沖縄などにある米軍基地、あるいは日本列島に点在する原発施設を狙うこともできよう。短・中距離ミサイルの実験は決して許してはならないのである。

安保理決議違反を指摘した安倍首相だが……

拡大トランプ米大統領(右)との首脳会談に臨む安倍晋三首相=2019年8月25日、フランス・ビアリッツ
 私はたまらず、出演していたテレビの番組で、安倍晋三首相に対し、トランプ大統領の短距離ミサイルへの姿勢について、きちんと意見してほしいと発言した。

 安倍首相はおそらく、フランスで開かれた主要7カ国首脳会議(G7)でおこなわれる日米首脳会議がその機会だと考えていたのだろう。8月25日の首脳会談で「(短距離を含めた)弾道ミサイルの発射は、国連安保理決議違反だ」と指摘したという。それに対しトランプ大統領は「首相の気持ちは理解できる。(日米の)立場の違いだ」と語ったと報じられている(毎日新聞8月26日朝刊)。

 大統領の言う「立場の違い」とは何か? 金委員長との「仲の良さ」の違いを言っているのか? 皆目見当がつかない。

 安倍首相の“忠告”も遅かったとは言わざるを得ない。理想を言えば、7月25日に最初の飛翔体が発射された時点で、直ちにトランプ大統領に注意を促すべきであった。なにもわれわれに知らせなくても、うちうちの電話での意見調整でもよかった。

 いずれにせよ、国連決議を平気で踏みにじるような言動は断じて許されない。北朝鮮のミサイル実験を「問題視しない」と言われ、黙っているわけにはいかないのである。

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筆者

田中秀征

田中秀征(たなか・しゅうせい) 元経企庁長官 福山大学客員教授

1940年生まれ。東京大学文学部、北海道大学法学部卒。83年衆院選で自民党から当選。93年6月、自民党を離党し新党さきがけを結成、代表代行に。細川護熙政権で首相特別補佐、橋本龍太郎内閣で経企庁長官などを歴任。著書に『平成史への証言 政治はなぜ劣化したのか』(朝日選書)https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=20286、『自民党本流と保守本流――保守二党ふたたび』(講談社)、『保守再生の好機』(ロッキング・オン)ほか多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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