山本章子(やまもと・あきこ) 琉球大学准教授
1979年北海道生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。2020年4月から現職。著書に『米国と日米安保条約改定ー沖縄・基地・同盟』(吉田書店、2017年)、『米国アウトサイダー大統領ー世界を揺さぶる「異端」の政治家たち』(朝日選書、2017年)、『日米地位協定ー在日米軍と「同盟」の70年』(中公新書、2019年)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
県民投票を実現した若者パワーはどこへ?沖縄が変わるカギは若者にこそあり
県民投票と選挙の大きな違いは「組織化」の程度だ。
県民投票の署名活動や呼びかけは、正直言って組織化されているとは言い難かった。だが、そうしたある種の“緩さ”、好きなときに可能な範囲で手伝える、一人一人がアイデアを出せるということが、かえって若者の自発的参加を促した面があった。
たとえば、人手が少ないので、署名活動は街頭署名ではなく、県民投票に賛同する商業施設や店舗、事務所を「署名スポット」にして「辺野古」県民投票の会のステッカーを貼り、道行く人に署名をうながす方法をとったのも、若者たちの発案だった。
ただ、実はこれはうまくいかなかった。既存の署名活動のイメージにこだわる地元メディアが、実際にはやっていない街頭署名の場面を演出して、ニュースや記事にしたからだ。街頭活動の場所を問い合わせる電話が多数入り、「『辺野古』県民投票の会」の事務所は説明に追われた。
試行錯誤を繰り返しながらも、若者たちの熱意は衰えず、県民投票に対する関心が高まるにつれ、ボランティアの人員も増えて、署名期間の終盤には、街頭署名を積極的に実施するに至った。
これに対し、選挙の選挙戦はしっかり組織化されている。手伝いにきた若者たちは動員の対象にすぎない。
数少ない例外は、昨夏の沖縄知事選における玉城デニー候補の選挙対策本部の青年部の活動だ。ダンスイベント「デニーナイト」などを企画した。これは、玉城氏の後援会組織が選挙のときだけ立ち上がるゆるやかな形態をとっており、飛び入り参加の若者たちが自由に動く余地があったためだ。2016年に活動を休止した学生団体「SEALDs RYUKYU」の元メンバーや、東京のシンクタンク「ND」のスタッフ、「辺野古」県民投票の会に参加した若者たちを、アイデアごと受け入れた玉城陣営が特別なのだ。
今年4月の衆院補選や6月の参院選では、既成政党が主導して従来の動員型の選挙戦を展開したため、県民投票や知事選に参加した若者にとって、あまり魅力がなかっただろう。
参院選では、既成政党が候補者の一本化を行ったことも、若者を選挙から遠ざけた。沖縄社会大衆党が、参院議員を3期務めた糸数慶子氏ではなく、新人の高良鉄美氏を候補者に立てたことへの反発は、元山氏らが参加する「県民の声」100人委員会の結成につながる。若者に人気があると見られていた自民党の安里繁信候補も、いったん知事選に出馬表明しながら、自らが批判した「密室の決めごと」で参院選に回った印象を持たれたことで、彼を支持していた若者いわく、「テンションが下がった」という。