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欧州の「火薬庫」イタリアの行方

花田吉隆 元防衛大学校教授

拡大サミット出席のため関西空港に到着したイタリアのコンテ首相(中央)=2019年6月27日

 イタリアで8月以来混乱していた政局が決着、これまでのポピュリスト政党同士による連立政権がわずか14カ月で幕を閉じ、新たに極右政党を外した連立政権が発足する。8月29日、セルジオ・マッタレッラ大統領はジュゼッペ・コンテ首相を首相に再指名するともに組閣要請を行った。欧州を混乱に陥れかねなかったイタリア政局の混迷は一応収束に向かうこととなった。

 欧州はいくつもの火種を抱える。英国の合意なきEU離脱や、このところとみに不透明感を増しつつある欧州経済の行方などだ。その中でも、イタリアはいつ火を噴くか分からない最大級の火種だ。イタリアの行方次第では、ようやく乗り切ったユーロ危機が再燃しかねない。ユーロ危機は当然のことながら全世界を混乱の渦に巻き込み、そうなれば日本とて無傷ではいられない。そういう「火薬庫」が今のイタリアなのだ。

EUを揺さぶってきたイタリアの極右政党

 そういう危ない「火薬」を手にもって、EUを、これでもかと揺さぶってきたのが極右政党「同盟」の党首マッテオ・サルヴィーニだ。同盟はかつて北部同盟といったことに表されている通り、イタリア北部を票田とする政党で全国に根を張ったものではなかった。それが、難民危機等を経て、国民の不安、不満が高まるのに乗じ、支持をイタリア全土に広げた。名前を現在の「同盟」に変え、2018年の総選挙で大きく躍進する(得票率17.3%)。

 その同盟が、総選挙を制した「五つ星運動」(同32.7%)と連立し出来上がったのがこれまでの政権だった。ポピュリスト同士が連立を組み政権を担うのは欧州で初めてだ。とうとう、ユーロ圏第3位の経済大国イタリアがポピュリストの手に落ちた。欧州は大きな衝撃に襲われた。

 同盟と五つ星運動は、同じポピュリスト政党でも中身が異なる。同盟は、反難民、反EUを旗印とする極右政党だ。極右はどこでもそうだが、国民の不満がエネルギー源になる。経済発展に取り残された層、グローバル競争の中で敗北した層などが抱く不満を吸収して成長していく。その際「武器」となるのが「弱者と外敵への攻撃」だ。国内の不満層は自分よりさらに「弱い者」を見つけこれを排斥しようとするし、「敵」を外につくり、原因はこれだと見せれば不満層は満足する。米国のドナルド・トランプ大統領やハンガリーのヴィクトル・オルバーン首相等、ポピュリストに共通する手法だ。同盟にとっての「弱者」は難民、「外敵」はEUだ。

 他方、五つ星運動はどちらかというと「アンチ・エスタブリッシュメント」だ。既得権益層が利益を壟断しているとの主張で、これもトランプ政権等で顕著だが、イタリアの場合、特にこれが効果的に効く。イタリア国民の多くは政治家に対する強い不信感を持っている。だからこそ、コメディアンのジュゼッペ・グリッロ氏が起こした五つ星運動が瞬く間に国民の支持を得ていったのだ。「誰に任せてもうまくいかないなら、全く毛色の違うコメディアンにでもやらせてみるか」との心情だ。

 政権発足当時、中心は五つ星運動の方だった。総選挙の得票率は五つ星運動の方が圧倒的に多い。ところが政治力で、同盟党首のサルヴィーニ氏と五つ星運動党首のディマイオ氏とでは大きな差があった。そもそも、これだけの得票差がありながら両者が揃って同格の副首相として入閣した。加えて、経済・財務相とともに最も重要な閣僚である内相のポストをサルヴィーニ氏が手にした。サルヴィーニ氏はディマイオ氏が互角に戦える相手ではなかった。

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筆者

花田吉隆

花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授

1953年生まれ。在スイス大使館公使、在フランクフルト総領事、在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、現在、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」(創成社)「スイスが問う明日の日本」(刀水書房)等。

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