2019年09月05日
イエメン南部の分離独立派である「南部暫定評議会(STC)」が8月にアデンを制圧し、ハディ暫定大統領が率いる政府軍を排除したことは、南部暫定評議会を支援するアラブ首長国連邦(UAE)と、暫定政権を支援するサウジアラビアの亀裂を浮き彫りにした。アメリカのトランプ大統領が発意した米国主導によるホルムズ海峡周辺の安全通行のための国際有志連合づくりにも影響しそうだ。
今回、アデンで蜂起した南部暫定評議会は、1994年の南北内戦で敗北した旧南イエメン勢力を中心に2007年に結成された南部運動(ヒラーク)の流れをくむ。ヒラークのインターネットサイトでは組織の目的は「解放と独立」であり、94年に南イエメンはイエメン政府によって「暴力的な抑圧」によって占領されたとする。「平和的な対話によって独立を達成する」とするが、政治指導部の筆頭は、南イエメンのイエメン社会党のビード書記長であり、現在の南部評議会の代表のアイダルス・アル・ズバイディ氏は軍事指導部の筆頭に上がっている。
ハディ大統領は2016年にズバイディ氏をアデン知事に任命した。同じ年にUAEはズバイディ氏が率いる民兵組織「治安ベルト部隊」を創設した。しかし、17年にハディ大統領はズハイディ知事を解任し、ズバイディ氏は南部の分離独立を求める南部評議会を設立した。委員長のズバイディ氏を含め、5人の南部地域の知事が指導部に名前を連ねている。この時にハディ暫定政権と、南部暫定評議会の対立は決定的になっていた。むしろ、それから2年間、南部評議会が暫定政権に協力してきたのは、サウジと協力するUAEの抑えがあったためと思える。
南部暫定評議会の蜂起の背景には、2カ月ほど前の7月上旬に、UAEがイエメン南部に駐留させていた5000人規模の自軍の大部分を撤退させたことがある。UAEは撤退の理由を、2018年12月にスウェーデンのストックホルムで国連の仲介で合意された南部地域の停戦協定(ストックホルム合意)を実施するためとしたが、イエメン内戦でのサウジやUAEの空爆に対する国際的な批判の高まりと、イランを巡る緊張の高まりを受けたUAEの政策転換があるとの見方が強い。
イエメン内戦では、4年間で約1万人の民間人が犠牲になり、中には10万人近い死者が出たとの推計もある。うち3分の2が、サウジやUAEが主導するアラブ有志連合の空爆によるものとされ、国際的な非難があがっている。さらに18年10月には、国連がイエメンで1400万人が飢餓の危険に瀕しているという警告を発した。
非難の高まりを受けて、米議会ではサウジやUAEへの武器売却がイエメン内戦を激化させているとの批判が強まり、6月には米上院が武器売却を阻止する決議案を可決し、7月には米下院が同様の決議案を可決した。トランプ大統領は決議に拒否権を発動した。この状況で、UAEがイエメンから自国軍の撤退を実施したのは、トランプ政権が終わったのち、米国から武器売却を受けられなくなることへの懸念を強めたためとみることができる。
6月、ホルムズ海峡で日本船籍のタンカーなど2隻が攻撃を受けた。米国はイランの仕業として非難し、海峡の航行の安全確保のために国際的な有志連合創設の考え方を示すなど、米・イランの緊張が高まった。UAEのイエメン撤退は、こうした時期に
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