山口 昌子(やまぐち しょうこ) 在仏ジャーナリスト
元新聞社パリ支局長。1994年度のボーン上田記念国際記者賞受賞。著書に『大統領府から読むフランス300年史』『パリの福澤諭吉』『ココ・シャネルの真実』『ドゴールのいるフランス』『フランス人の不思議な頭の中』『原発大国フランスからの警告』『フランス流テロとの戦い方』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
原発に思い入れのないマクロン政権。日本と共同研究中の「アストリッド計画」を放棄
「原発大国」(58基)のフランスが、日本と共同研究中だった高速実証炉「アストリッド(ASTRID)」計画を経費高騰を理由に放棄した。建設中の第3世代の原子炉「欧州加圧水型原子炉(EPR)を「優先する」(ボルヌ環境相)というが、そのEPRにしても完成のメドは依然、たっていない。先に「夢の原子炉」と謳(うた)ってきた高速増殖炉「スーパーフェニックス」を断念しているフランス。「政治的支援の不在」も指摘されるマクロン政権の方針は不透明さを増す一方だ。
フランス原子力庁(CEA)は8月30日、声明を発表してASTRID計画の放棄を確認。「現在のエネルギー状況下では、第4世代の原子炉の産業的発展は今世紀の後半前には実施しない」と述べ、計画再開は少なくとも2050年以降と表明した。『ルモンド』が同日、「ASTRID計画放棄の方針」「25人で構成の調整担当者もすでに解散された」と報じたからだ。
ASTRID計画の開始は2006年1月、シラク大統領の時代だ。大統領の指令でCEAが“第4世代”の高速炉として2020年の稼働を目指して研究を開始。サルコジ政権(07~12年)でも継承された。
サルコジは09年12月に、「フランスは10億ユーロを核開発、特に“第4世代の原子炉”のために計上する」と明言。10年には「未来への投資」として、ASTRID計画の「コンセプトの研究」に6億5160万ユーロの予算を計上した。
社会党出身のオランド大統領(2012~17年)も計画を継承し、着任直後の12年6月には、CEAがフランス南部ガール県の核施設内での建設に向けて、仏建設大手ブイグをはじめ、原発大手アレバ、仏電力公社(EDF)、ロールスロイス・パワー・エンジニアリングなどと国際チームを形成、約500人が計画に経済的、技術的に関与した。
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