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南スーダンで野球の試合前の「礼」に込めた思い

野球人、アフリカをゆく(11)宿舎のレストランで野球哲学を語り合った夜

友成晋也 一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構 代表理事

アフリカの死亡原因、最多はマラリア

 アフリカ大陸では、エボラ出血熱や、エイズなど、死に至る病気があるが、人々が最も命をおとしている病因はマラリアだ。マラリア原虫を蚊が媒介し、刺されて感染してしまうと、素早く治療しなければ死に至るなど、重症化することもある。

 「いや、油断は禁物です。この宿舎は、池もありますよね。ボウフラが発生しかねませんから、本当は池なんかない方がいいんですけどね」と厳しいことをいうイマニは、南スーダンに赴任前、JICA本部で関係者の健康管理を取り扱う部署の管理職についていた。

 「宿舎の部屋には蚊帳がつってあるし、レストランもオープンエアですけど、天井にはファンが回っていて蚊を追い払っているし、防蚊スプレーした上に、長ズボンはいて足元には蚊取り線香を炊いていますから、大丈夫でしょう」と私が言うと、イマニは「私はアフリカ各地でマラリアにかかって大変な思いをした人たちをたくさんみてきましたから、神経質なのかもしれません」と言う。

 「僕はかつてガーナで3回マラリアを患いましたよ。でもそのうち2回は誤診でした。アフリカの罹患(りかん)者実数って、もっと少ないかもしれませんよ」と笑い話で返したとき、ウェーターが来た。渡されたメニューを眺めたイマニは、じろりと眼鏡越しにスリランカ人のウェーターを見上げ、満を持したかのように「中華丼」と言った。

 「はい? ここはバーミヤンじゃないんですから、そんなメニューないでしょう!」と一応礼儀として突っ込むと、ニヤリと笑って「この間、ここのシェフに作り方教えたんですよ」と自慢げに言う。「今は親子丼も教えているところです」と言いながら、「監督はサラダですよね」と、私の嗜好(しこう)をすでに知り尽くしているようで、本人からの回答も待たずに確認もせずに注文する。

 アフリカで仕事をするなら体力勝負。よく睡眠をとり、栄養をしっかりとって、免疫力を高めておけば、蚊に刺されたりしても発症しないとも言われている。

「ポリシー」を破ったウォータータイム

 「そういえば、野球の練習でひとつ疑問があるんです。練習中に飲ませている水のことなんですが」

 炎天下の元、練習をするなら、当然水分補給が重要だ。だが、ジュバ大学のグラウンドには水道がない。水は自分で持ってこなければならない。けれども、日本の子供のように水筒を持ってくる子は皆無だ。高校生くらいになると、小さなペットボトルをもっている子もいるが、多くは何も持たず、持っている子の水を分けてもらっているような状態だった。

 私はこれまでのガーナ、タンザニアでの野球指導経験の中で、野球道具以外のものを選手に与えることを極力避けてきた。交通費、食べ物、飲料など、直接野球に関すること以外のものまで面倒をみてしまうと、完全に援助となってしまう。

拡大ジュバ大学に向かう途中、スーパーに立ち寄りペットボトルの水を購入する。冷えているボトルを選ぶとき、すっかり顔なじみのお店のご主人が手伝ってくれる。
 国際協力の仕事をしていると必ず考えるのが、「援助漬け、援助慣れが自立心を阻害してしまわないか」ということである。JICAの仕事でいつもそれを考えているからか、それがボランティアの野球指導にも自然と現れているのかもしれない。

 援助は一方的に与えることだが、協力はお互いできることをベースに目的を目指して力を出し合う。野球で監督と選手という間柄であっても、お互いをリスペクトしあう関係でありたいので、選手にはグラウンドに立つところまでは自立してほしい。

 しかし、南スーダンでは、これまでの私なりの「ポリシー」を破った。宿舎からジュバ大学のグラウンドに防弾車で移動する途中、小さなスーパーに立ち寄り、1.5リットルのペットボトルを十数本購入し、練習の合間に「ウォータータイム!」と叫んで、水を飲む時間を作って飲ませている。

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筆者

友成晋也

友成晋也(ともなり・しんや) 一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構 代表理事

中学、高校、大学と野球一筋。慶應義塾大学卒業後、リクルートコスモス社勤務を経てJICA(独立行政法人国際協力機構)に転職。1996年からのJICAガーナ事務所在勤時代に、仕事の傍らガーナ野球代表チーム監督に就任し、オリンピックを目指す。帰国後、2003年にNPO法人アフリカ野球友の会を立ち上げ、以来17年にわたり野球を通じた国際交流、協力をアフリカ8カ国で展開。2014年には、タンザニアで二度目の代表監督に就任。2018年からJICA南スーダン事務所に勤務の傍ら、青少年野球チームを立ち上げ、指導を行っている。著書に『アフリカと白球』(文芸社)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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