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国民の価値観から見えた野党と与党がとるべき道

れいわ新選組を支持するのはどういう人か?自民支持・不支持を分けるものは?

三浦瑠麗 国際政治学者・山猫総合研究所代表

れいわに投票した低所得・アッパーミドル家庭

拡大会見するれいわ新選組の山本太郎代表(奥)=2019年8月7日、東京都渋谷区
 まず、れいわへの投票者の「学歴」は、他とさほど変わりませんが、「所得」を見ると、ごく低所得の家庭とアッパーミドル家庭(世帯年収700万~1000万円)が同居しています。このうちアッパーミドル家庭の投票者は、選挙区では共産党に投票する傾向がありました。すなわち、彼らは投票先の政党を政策思想・イデオロギーで選んでおり、より急進的と思われたれいわ新選組に比例区で票を投じたものと思われます。

 これに対し、低所得家庭の選挙区での投票先はばらけています。目立つのは立憲・国民ですが、共産・N国・自民に入れている人もいます。全般的に思想傾向としては左寄りですが、単純に左派とも言い切れないのは、自民党やN国にも入れるという投票行動が一部に見られるからです。イデオロギーよりも政党がとったスタイルが支持された可能性があります。

 次に、れいわ投票者の持つ価値観を見てみます。本調査では、選挙の投票行動に加えて、対象者の価値観についても聞いています。日本人の価値観をあぶり出すことが本来の目的だからです。

既得権打破、強いリーダーを待望

 それによると、れいわ投票者のうち、実に72%が変革を切望し、80%が強いリーダーを望んでいる。また、91%が日本は間違った方向に行っていると回答しました。これは、日本人全体の平均と比べて著しく高いといえます。

 他の価値観も見てみましょう。外交・安保に関しては典型的な護憲左派の特徴を有しますが、中国に対しては危機感が強い点が目立ちます。韓国に対しては、日本人全体の平均よりもいくらか融和的です。また、テロ対策強化には過半数が同意し、豪州と英国との同盟締結に親和的でした。安保イデオロギーに関しては、「護憲」であり、「集団的自衛権」や「同盟強化」反対にとどまっていることがうかがえました。

 以上、まとめると、れいわ支持者の外交安保政策での護憲左派的価値観は明白ですが、それが運動の熱量の核となっている感じはしません。顕著なのは現状否定のエネルギーの強さであり、既得権打破やそのために強いリーダーを待望する気持ちが極めて強いという特徴です。

 れいわ新選組は参院選で立憲民主党と国民民主党、共産党から票を奪いましたが、その原動力は、政治、メディア、エリート社会全般に対する不信感であり、それは低所得家庭とアッパーミドルの急進派から生じたエスタブリッシュメント批判だったといっていいでしょう。れいわ新選組を支持した人の一部にイデオロギー上の純粋な理念は存在しますが、エスタブリッシュメント批判や現状否定の動機には、一貫性のある政策志向はおそらく存在しません。

自民支持・不支持を分ける憲法・安保観

拡大自民党本部で開かれた自民党役員会に臨む安倍晋三首相(中央)=2019年9月3日、東京・永田町の党本部
 次に、自民党とその批判者たちとのあいだの最大の価値観の違いは何であるか、に話を移しましょう。

 自民党支持者は既得権バリバリのエリートの大企業正社員ばかりが集まっているのでしょうか。そうではありません。そもそも、自民党支持と不支持を分けているのは、所得でもなければ学歴でもありません。自民党は階級政党ではないからです。

 正社員・正職員の比率のみ、自民党は若干高まりますが、政党支持に関しては、自民党を高く評価する人と低く評価する人のあいだの正社員比率の差は8ポイントであり、大して大きな差ではありません。自民党の支持・不支持を分ける最大のポイントは、階級ではなく、いまだに憲法・安保なのです。

 この点については、自民党の支持母体である中小企業、自営業、農業従事者などの層と、自民党に投票している有権者を混同せずに理解する必要があります。いまや日本の最大の支持政党は「無党派」であり、政党の後援組織に組み込まれていない有権者の動向を理解することが、本質的に重要だからです。


筆者

三浦瑠麗

三浦瑠麗(みうら・るり) 国際政治学者・山猫総合研究所代表

1980年神奈川県茅ケ崎市生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。専門は国際政治、比較政治。東京大学政策ビジョン研究センター講師などを経て現職。著書に『シビリアンの戦争―デモクラシーが攻撃的になるとき』(岩波書店)、『「トランプ時代」の新世界秩序』(潮新書)、『あなたに伝えたい政治の話』(文春新書)、『21世紀の戦争と平和 徴兵制はなぜ再び必要とされているのか』(新潮社)など。政治外交評論のブログ「山猫日記」を主宰。公式メールマガジン、三浦瑠麗の「自分で考えるための政治の話」をプレジデント社から発行中。共同通信「報道と読者」委員会第8期、9期委員、読売新聞読書委員。近著に『日本の分断―私たちの民主主義の未来について』(文春新書)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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