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日産の西川社長の報酬不正問題はなぜ起きたのか?

異文化マネージメントに失敗した日産の企業統治の限界

酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授

日産におけるSARの扱い

 朝日新聞はSARを「業績連動型報酬の一種」と説明しているが、日産の2013年度の有価証券報告書は「株価連動型インセンティブ受領権(以後、受領権)」と呼び、「当社の持続的な利益ある成長に対する取締役の意欲を一層高めることを目的としており、会社のビジネスプランに直接連動した目標を達成することにより付与される」と説明している。
日産は株価連動型報酬として「ストック・オプション」も採用しているが、これは役員以外に対するものとなっている。

 受領権については、「株価連動型インセンティブ受領権の金額は平成26年3月31日時点の株価を用いて算定した公正価額に基づき、当事業年度に計上した会計上の費用を記載している。この公正価額で、支払いが確定されたものではない。」と説明している。

拡大日産自動車グローバル本社=横浜市西区
 昨年11月にゴーン前会長が逮捕された際にも話題となった過去の有価証券報告書への記載状況をみると、1億円以上の報酬がある役員の記載が義務付けられる直前の2008年度は、全取締役の金額報酬合計の記載がある。一方、受領権については、取締役9人のうち6人に対して普通株式600万株相当数を付与したが、その行使可能数は、被付与者の業績目標の達成度に応じ最終的に決定される」と書かれているのみで、具体的な金額の記載等はない。

 2009年度については、報酬金額が1億円以上の各取締役の報酬額が掲載され、その後に「取締役の報酬については、取締役会議長が他の代表取締役と協議の上、各取締役の報酬について定めた契約、業績、企業報酬のコンサルタントによる役員報酬に関するベンチマークの結果を参考に決定する」との記述があるのみで、受領権の報酬額には触れていない。当該年度は、取締役会長がゴーン氏、代表取締役がゴーン氏と志賀俊之氏だった。

 2010年度以降は、総報酬が1億円以上の取締役につき、金額報酬とは別に、受領権を当該年度末の株価で試算した額を掲載し、その合計額がわかるようになっている。しかし、金額報酬は当該年度の支払額、受領権の報酬額は当該年度末の株価としているため、単純な足し算としては微妙にずれがある。

 この年度から、西川氏が代表取締役に昇格して合計3人となったが、同時に「取締役の報酬については、取締役会議長が、各取締役の報酬について定めた契約、業績、第三者による役員に関する報酬のベンチマーク結果を参考に、代表取締役と協議の上、決定する」という記載に変更されている。ゴーン氏の権限がここから一段と強まったことがうかがえる。

 「ゴーン事件」時の西川社長の記者会見では、この年から彼を含めた取締役の報酬について、代表取締役3人が関与するようになったということだったが、むしろゴーン氏の権限は一段と強まって、形骸化していたことがうかがえる。

 ちなみに、ゴーン事件や西川社長の不正報酬に登場するグレッグ・ケリー氏は、「平取」を経ずに2011年度に突如、代表取締役に就いている。だが、報酬合計額は1億円未満であった。

業績連動型報酬に慣れていない日本企業

 他紙には、報酬コンサルティング会社や法律事務所のデータとして、2017年度の日米欧のCEO報酬調査(大企業の中央値)の結果が出ているが、これによると、業績連動報酬の比率は日本が52%で、米国(90%)、英国(76%)だと記されている。

 また、業績連動報酬のひとつである株式報酬を導入している企業のうち、報酬額を目標達成度合いによって変える仕組みが導入されているかどうかでは、日本と米国が4割、英国とフランスは9割の企業が導入しているという。

 こうしたデータから浮かぶのは、日本企業が今なお、業績連動型報酬について慣れていない実態だ。

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筆者

酒井吉廣

酒井吉廣(さかい・よしひろ) 中部大学経営情報学部教授

1985年日本銀行入行。金融市場調節、大手行の海外拠点考査を担当の後、信用機構室調査役。2000年より米国野村証券シニア・エグゼクティブ・アドバイザー、日本政策投資銀行シニアエコノミスト。この間、2000年より米国AEI研究員、2002年よりCSIS非常勤研究員、2012年より青山学院大学院経済研究科講師、中国清華大学高級研究員。日米中の企業の顧問等も務める。ニューヨーク大学MBA、ボストン大学犯罪学修士。

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