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日産の西川社長の報酬不正問題はなぜ起きたのか?

異文化マネージメントに失敗した日産の企業統治の限界

酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授

「ゴーン事件」が起きた理由を推測すると

拡大東京地裁に入るカルロス・ゴーン被告=2019年5月23日、東京・霞が関
 ところで、昨年12月7日の朝日新聞デジタルに「カルロス・ゴーン もたらした光と影」、同月27日には「カルロス・ゴーン 喝采浴びたカリスマ、変転した19年」と彼の成功と転落の軌跡が詳しく書かれている。これをもとに、第三者の視点からゴーン氏がなぜ今回のような行動に出たかを考えると、二つの理由に思い至る。

 一つは、1999年に瀕死(ひんし)の状態だった日産にゴーン氏が来てから「リバイバルプラン」を発表するまでの過程で勉強したであろう、日産が失敗した理由である。これについては複数の本が上梓されているが、ゴーン氏にとって重要だったのは、資金使途の自由度が高かった「CEO機密費」の存在である。

 社長が思うがままに振る舞えるという現実を知った彼は、どこかの時点でそれを自身でも悪用するに至ったのだろう。CEO機密費は、「常識の範囲内」という縛りはあるとしても、日本企業では一般的。それゆえ、日産の他の役職員も今回の問題発覚まで沈黙を守ったと推測できる。ただし、本稿ではこれには触れない。

 もう一つは、2000年度決算で3311億円の純利益を達成した彼が、さらなる業績拡大に向けたアイデアの中で、SARの導入を考えたであろうことだ。2003年度から導入している事実がそれを物語るが、実はこれは創業者ではないCEOが、自分の貢献に対するインセンティブを得るためによく使う手である。ただし、後で触れるが、上場企業がこれを採用するのにはリスクが伴うのも周知の事実だ。

 ゴーン氏は、SARに慣れていない財務・経理陣、それへの税制や会計制度も整備されていない日本の現状を見て、自らルールを作る結果になったと思われる。これは、先述した2008年度から2013年度までの有価証券報告書の記載事項から、裏付けられる。

グローバル企業の基本を知らなかった日産

 業績目標達成型報酬が90%のフランス企業で働いてきたゴーン前会長にすれば、こうした報酬に慣れていない、またそれを規制するルールもない日本で、自分の思うままに行動をすることは、いともたやすかったであろう。もしかすると、今回の不正報酬の受け取りを認めた西川社長も、不正の意味がまったくわかっていなかったのかもしれない。

 その意味で、ゴーン前会長に日産が振り回された真の理由は、グローバル企業としての基本をわきまえていなかった、あるいはフランス企業のコーポレート・ガバナンスとその一部である報酬の決め方がわかっていなかったことにあるのではないか。いかにゴーン氏が日産を私物化しようとしても、社内にグローバル企業の基本を知り、日産のために行動できる人物がいれば、今回の問題は避けられたはずだ。

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筆者

酒井吉廣

酒井吉廣(さかい・よしひろ) 中部大学経営情報学部教授

1985年日本銀行入行。金融市場調節、大手行の海外拠点考査を担当の後、信用機構室調査役。2000年より米国野村証券シニア・エグゼクティブ・アドバイザー、日本政策投資銀行シニアエコノミスト。この間、2000年より米国AEI研究員、2002年よりCSIS非常勤研究員、2012年より青山学院大学院経済研究科講師、中国清華大学高級研究員。日米中の企業の顧問等も務める。ニューヨーク大学MBA、ボストン大学犯罪学修士。

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