絵空事の核燃料サイクル、今やニュース価値なし?
フランス発「アストリッドの開発計画停止」報道に日本マスコミは淡泊
石川智也 朝日新聞記者
「核燃料サイクル」を取り繕うため不可欠
実は、今回と同様の報道は9カ月前にもあった。昨年11月28日、日経新聞はアストリッドについて「仏政府が2020年以降、計画を凍結する方針を日本側に伝えたことがわかった。19年で研究を中断、20年以降は予算を付けない意向という。日本はすでに約200億円を投じている。開発計画の大幅な見直しは必至で、日本の原子力政策にとっても大きな打撃となる」と報じた。
「打撃」の意味は、日本政府にとってアストリッドは、もはや破綻が明らかになった「核燃料サイクル」を取り繕うために欠かせないものだからだ。
だが今回と同様、この記事は各方面からほぼ黙殺された。直後の会見でフランスの方針について聞かれた菅義偉官房長官は、いつもの無表情で「承知していない」と答えた。
ようやく一ヶ月後の12月20日、電気事業連合会は「現時点で(フランス)政府による何らかの決定が下された事実はない」とのコメントを発表し、日経の報道を否定した。
その翌日、日本政府は何事もなかったかのように、「夢の原子炉」の開発をあくまで進めようという決定を下した。2016年に廃炉が決まったもんじゅの後継炉開発について、原子力関係閣僚会議が、実用化の目標時期を定めた「戦略ロードマップ」を正式決定したのだ。
高速炉開発ロードマップのポイント
・21世紀半ばごろに現実的なスケールの高速炉が運転開始
・本格的利用が期待されるのは21世紀後半
・ナトリウム炉が国際的に最も実績があるが、求められる技術は多様化
・当面5年程度、民間による技術間競争を促進
・2024年以降、採用する可能性のある技術を絞り込み、運転開始に向けた工程を検討
・国として適切な規模の財政支援を行う
高速炉を中核に置く「サイクル」の看板を掲げ続け、そのさらなる推進姿勢を前面に出したもので、呆れることに、1兆1千億円もの巨費を投じながらほとんど運転もできず成果も上げられなかったもんじゅの大失敗はまったく総括されていない。
旗振り役のエネ庁が今年2月6日に発表したリリースは「日本では1963年頃から高速炉の本格的な設計研究がスタート。1977年には実験炉常陽、1994年には原型炉もんじゅが臨界を達成。その後、高速炉に関する技術研究が長年続けられ、さまざまな知見が蓄積されてきました」「これまで培った経験や技術・知見を活かし、今後も、高速炉実用化のための技術基盤の確立とイノベーションの促進に、国内外一体となって取り組んでいきます」と高らかにうたった。
これを読むと、これまでの開発史がまるで成功物語かのようだ。
日本の高速炉開発史
1967年 【原子力長期計画】1970年代後半に原型炉(もんじゅ)運転、1990年ごろまでに実用炉運転
1977年 実験炉「常陽」臨界
1982年 【原子力長計】1990年ごろに「もんじゅ」臨界。2010年ごろに実用化
1994年 原型炉「もんじゅ」臨界
1994年 【原子力長計】2030年ごろに実用化
1995年 もんじゅナトリウム漏れ事故
2010年 【エネルギー基本計画】実証炉を2025年ごろまでに、実用炉を50年より前に導入
2011年 東京電力福島第一原発事故
2016年 もんじゅ廃炉を決定
2018年 【高速炉開発ロードマップ】現実的なスケールの高速炉(実証炉)を今世紀半ばごろ建設、高速炉の本格的利用(実用炉)は今世紀後半のいずれか
日本の原子力政策は、ご存じの通り、原発から出る使用済み燃料を全量再処理し、取り出したプルトニウムを再利用する「サイクル」が大前提で、それが原発を稼働する大義でもあった。そのなかで、高速中性子によって本来は「燃えないウラン」まで燃料プルトニウムに変える高速増殖炉は、その「輪っか」の要。まさに資源小国日本の「夢」だった。
サイクルは本来、使用済み燃料からプルトニウムを取り出す再処理工場と、そのプルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料をつくる工場、そして高速増殖炉という三つが同時に成立しないと成り立たない。エネルギーの自給自足を目指してサイクルに取り組んだ国はいずれも、それらを国内につくろうとした。
だが日本は再処理もMOX燃料加工も海外に依存してきた。そこへきての2016年のもんじゅ廃炉決定で、サイクルの輪は完全に切れたはずだった。にもかかわらず輪がまだつながっていると強弁するため、すがったのがアストリッドだったのだ。
経産省は主にアストリッド計画のための高速炉国際協力研究開発費として今年度までに320億円を投じてきた。