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西川社長に即時辞任を勧告した日産は正しかったか

グローバル企業のガバナンスを企業収益の拡大に資するという観点から考える

酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授

日産にプラスではない欧米の報道も

拡大日産自動車の西川広人社長の辞任を発表する木村康・取締役会議長=2019年9月9日、横浜市西区

 日産は株式の43%をルノーに保有される一方、日産が主張するルノーとの共同運営会社を通じた影響力行使の可能性には疑問が残り、実質的に生殺与奪の件を握られていると言っても過言ではない。このため、上述③のルノーへの対応は日産にとって重要事項である。 

 また、ルノーの株主であるフランス政府やフランス国民は、西川社長辞任の経緯をフランスのメディア報道で知る。だが、報道内容は日本のメディア報道とは必ずしも同じではない点を理解しておくべきだ。

 今回の議論では、苦渋の決断を迫られた取締役もいたであろう。しかし、木村取締役会議長が決議内容について、合理的な理由をつけて粛々と説明したことで、淡々と世界に発信されるはずだった。

 ところが、その後の西川社長による無念さを感じさせる記者会見と、翌日以降の記事に取締役関係者の意見として、その背景を物語るような議事進行過程が明らかになったことで、欧米メディアの中には、「困難な作業に取り組んできた西川社長が、取締役会の強い要請によって辞任した」という報道さえあった。これは、「ポスト西川」の日産にとって決してプラスではない。

合理性・継続性を欠く取締役会の判断

 民間企業であれ、公的機関であれ、業務には合理性と継続性が必要である。この観点からすると、5月17日の「西川体制」の正式発足から今回の西川社長辞任に至るまでの経緯は、合理性や継続性を欠く“ドタバタ劇”と言わざるを得ない。

 メディアの報道によれば、5月17日の時点で暫定指名・報酬委員会の井原慶子委員長は、西川社長続投の理由について、「西川社長は経営者の不正、検査問題、業績悪化などの責任が問われる」と指摘し、「まずは経営を安定させる。連続性が重要だ」と説明したという。経営者の不正、検査問題が一区切りしたことを考えれば、実質的に残る西川社長の課題は、業績回復ということになる。

元日産自動車代表取締役のグレッグ・ケリー氏=日産自動車提供 拡大
 その後、6月10日に発売された月刊誌『文藝春秋』7月号で、元日産自動車代表取締役のグレッグ・ケリー氏が今回の不正報酬疑惑を暴露。内容を確認する気なら数日で十分にもかかわらず、取締役会は6月27日の株主総会において西川社長の承認判断を受ける選択をした。

 西川社長の取締役継続に対する株主総会での賛成率は78%。日本企業の役員としてはかなり低く、43%の議決権を持つルノーの賛成票を除いて考えると61%しかなかった。上場企業は株主総会の直後に新取締役会を開いて、取締役会議長を選任するが、恐らくその時も不正報酬疑惑には触れられなかっただろう。

 私はなにも西川社長を批判しているのではない。西川社長の下での構造改革プランの継続が承認されたことと、今回の辞任勧告に至ったこととの整合性のなさに注目しているのだ。

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筆者

酒井吉廣

酒井吉廣(さかい・よしひろ) 中部大学経営情報学部教授

1985年日本銀行入行。金融市場調節、大手行の海外拠点考査を担当の後、信用機構室調査役。2000年より米国野村証券シニア・エグゼクティブ・アドバイザー、日本政策投資銀行シニアエコノミスト。この間、2000年より米国AEI研究員、2002年よりCSIS非常勤研究員、2012年より青山学院大学院経済研究科講師、中国清華大学高級研究員。日米中の企業の顧問等も務める。ニューヨーク大学MBA、ボストン大学犯罪学修士。

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