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西川社長に即時辞任を勧告した日産は正しかったか

グローバル企業のガバナンスを企業収益の拡大に資するという観点から考える

酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授

業績悪化は底打ちという認識だった取締役会

 7月25日発表の2019年度第一四半期決算は、営業利益が前年同期の1091億円から16億円へと激減した。西川社長はその場で構造改革プランの進捗(しんちょく)を強調。木村取締役会議長も9月9日の記者会見で、「7、8、9月は少し回復基調にある」と述べた。先述した、5月17日に指摘した三つの課題の最後である、業績回復の目途もつき始めたという口ぶりであった。

 しかも、検察が「ゴーン事件」への関連をめぐって西川社長を不起訴とし、9月9日の取締役会(監査委員会の報告書の内容)も、西川社長に不正行為の意図はなく、ただ、本人が行使日変更をしなかったことは社内ルールに抵触する「事務的錯誤」だとして、問題なしと判断したのである。

拡大2019年4~6月期決算について記者会見する日産自動車の西川広人社長兼CEO(最高経営責任者)=2019年7月25日、横浜市

 これらを考えあわせると、取締役会が4カ月弱前の西川社長続投の判断を変えて、辞任を強く要請したことには不自然なところがある。事実認識と判断のギャップが、欧米人の目には奇異に映る可能性がある。なお、西川社長の不正報酬は本人の意思ではなかったという点にゴーン陣営等から批判が出ているが、本稿の目的は取締役会の合理性と継続性を問うことのため、ここでは触れない。

 “ドタバタ劇”を裏書きするように、4人の取締役による記者会見では、取締役は続けるのか、また新社長は彼の下で作られた2022年度まである構造改革プランを続けるのかなどには、まったく触れていない(なお、9⽉14⽇の朝⽇新聞 デジタル版「⽇産『ポスト⻄川』誰に 指名委、約10⼈と⾯談」には、日産側の理由から⻄川社⻑は 取締役は続ける予定とある。実際、16⽇に最⾼執 ⾏役社長兼CEOから退任して、取締役は続けることとなった)。

 西川社長も、辞任の主たる理由を明確にしなかったうえ、身の振り方については周囲と相談するというばかりで、明確な言及を避けた。英字紙がアナリストの「この時点での3カ月(新社長決定までに2カ月はかかることを前提)のロスは非常に痛い」との意見を載せたが、ここで従来の判断を変えた結果は将来に禍根を残すかも知れない。

工夫の余地がある代表取締役とCEOの併用

 日本企業の欧米企業との違いの一つは、代表権を持つ取締役が存在することである。日産の場合も、2010年からゴーン前会長と志賀俊之氏に加えて西川氏が、2011年からはケリー氏も加わって、2013年度までは代表取締役4人体制だった。

 代表取締役は「代表」がついていることが示すように、会社を代表する取締役として取締役会から委ねられた事項の意思決定と執行を行うが、実質的に取締役以上の力があり、取締役以上の経営責任と善管注意義務が課せられる。しかし、欧米のメディアがCEO等の欧米式の呼称のみを使うように、欧米企業には代表取締役体制があまり理解されていない。これは、CEO機密費が理解されないのと同じだ。

 西川氏は記者会見で「SARの扱いを(ケリー氏等の担当に)任せていた」と説明したが、もしこれは事実だとしても、当時の彼が立場的にケリー氏(当時は代表取締役専務執行役)の上位に位置付けられる代表取締役COO(最高執行責任者)であったことを考えれば、そうしたコメント自体が何とも残念な話となる。普通なら、取締役就任時と代表取締役就任時に、それぞれ役職の役割と権限、責任、義務の説明をコンプライアンス部署から受けるはずだからだ。

 なお、代表取締役(今は取締役代表執行役)という役職を、最高経営責任者(CEO)という欧米型の役職と併用することは、取締役会が代表取締役を選任するのが現行の会社法上の必要事項とはいえ、今回の記者会見の曖昧(あいまい)さにもつながっている。日産の場合、取締役の過半数を社外取締役にすると決めたのだから、この併用については工夫した方がいい。記者からも、(代表執行役)社長は辞めてもCEOは続けるのかとの質問が出た。

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筆者

酒井吉廣

酒井吉廣(さかい・よしひろ) 中部大学経営情報学部教授

1985年日本銀行入行。金融市場調節、大手行の海外拠点考査を担当の後、信用機構室調査役。2000年より米国野村証券シニア・エグゼクティブ・アドバイザー、日本政策投資銀行シニアエコノミスト。この間、2000年より米国AEI研究員、2002年よりCSIS非常勤研究員、2012年より青山学院大学院経済研究科講師、中国清華大学高級研究員。日米中の企業の顧問等も務める。ニューヨーク大学MBA、ボストン大学犯罪学修士。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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