平成政治を問い直す【2】政治改革の「必然性」と陥穽
2019年09月19日
「改革の政治」とは、すなわち「守旧保守」から「改革保守」への保守政治の自己脱却であった。政治が大きな構造転換をなしとげる際は、強力なリーダーシップが必要とされる。したがって、「改革の政治」は、二大政党と政権交代をもたらす政治手法の改革、すなわち政治改革として始まった。
政治改革の端緒は竹下政権に遡る。竹下登は、気配りと配慮で官僚の操縦術を身につけた「調整型政治の完成者」(佐道明広)であり、利益配分政治を代表する政治家であった。
「守旧保守」の行き詰まりは第二に金権腐敗であり、1988年に発覚したリクルート事件は政治改革の号砲となった。冷戦終焉によって自民党の汚職にはこれまで以上に厳しい目が向けられ、消費税導入に伴う納税者意識もそれを促進していった。
1992年、内田健三や佐々木毅らを中心として「政治改革推進協議会(民間政治臨調)」が結成され、政治改革は政治エリートのあいだでにわかに高揚する。政治改革の機運は、中選挙区制が諸悪の根源であるという「中選挙区制元凶論」に結びつけられ、民間政治臨調は選挙制度改革をめぐり与野党の合意形成の場を提供する圧力機関として機能していった。
1992年11月、民間政治臨調は日比谷公園に4000人の聴衆を集めて「政治改革を求める国民集会」を開催。この集会のクライマックスは「中選挙区廃止宣言」が拍手で採択されたシーンであった。若手議員の赤城徳彦によって朗読された「中選挙区廃止宣言」は、冷戦崩壊という「歴史的な激動」から筆を起こしつつ、日本の「議会制民主政治の崩壊」への危機感を表明し、政治家の「歴史に対する責任」を意気軒昂に謳いあげるものだが、現状閉塞の原因は何ゆえか「いまや制度疲労の極限に達した中選挙区制度」にのみ押しつけられ、「われわれは、ここに、歴史的な使命を終えた中選挙区制度との決別を決意」すると結ばれている。
後知恵で見れば、この宣言は政治改革という「熱病」に罹患した当時の政治エリートの気負いを象徴的に示すものであり、自分たちが党派を超えて「改革」に挑まなければ日本が沈没するという焦燥感を漲らせながら、とはいえ各自の使命感は行き場もなく放出され、そのエネルギーが発散先を求めて渦巻いているのだった。
このような政治改革のエネルギーは、1990年代初頭の自民党で圧倒的な支配力を誇った竹下派の内紛と結びついていく。竹下派のトップは竹下と金丸であり、その下に「竹下派七奉行」と呼ばれる若手実力者が揃っていた。しかし、不正献金によって金丸が会長を辞任すると、後継会長をめぐり、羽田を担ぎ出した小沢グループと、小渕を推薦した竹下らとに分裂していく。ここにおいて小沢は、派閥内の権力闘争を政治改革という大義で正当化していったのである。
1992年、後継会長として小渕が選出されると、小沢はこれを不服として「改革フォーラム21」(羽田派)を結成し、ここに自民党最大派閥の竹下派は分裂する。「改革フォーラム21」は、自民党内から選挙制度改革と行政機構の縮小刷新を求める勢力、すなわち自民党「改革派」の誕生であり、ひいては保守政治内部からの「改革派」の登場、すなわち「改革保守」の赤子であった。
長年にわたり政権を担当してきた自民党にあり、その統治を維持しようとする「守旧派」の立場は理解しやすい。しかし、「自民党の旧来型システムにおける最大の成功者」(野中尚人)であった小沢一郎が、なにゆえ自民党を飛びだし、外からそれに闘いを挑もうとしたのか、権力維持の合理性という観点からは理解しづらい。
1991年、竹下派の実力者にあった小沢は、「ぬるま湯に浸った万年与野党を一回ガラガラポンする」ことによって「健全野党を作る以外にない」と述べている。そうであれば、自民党「改革派」は、与党でありながら「健全野党の創出」を唱え、与党でありながら「政権交代の必要性」を訴えるという、いわば利敵行為ともいえる矛盾をまじめに追求していたことになる。
自民党「改革派」の動機については論理的な説明が難しく、政治学者の見立ても多岐にわたっている。たとえば佐々木毅は、自民党「改革派」には「自民党を超えた日本の大状況に対する使命感が存在した」(注1)と指摘する。あるいは成田憲彦は、小沢は「日本の政治システムの欠陥」を是正するために自民党を犠牲にしたという(注2)。他方、渡辺治は小沢の目的を「新自由主義改革」に求め、それゆえ小沢は「改革を競い合う保守二大政党制、多数党に裏付けられた強力な政府、改革法案をところてんのように通す国会づくり」を必要としたという(注3)。総じて、小沢の動機についてはいずれの政治学者も
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