政府やメディアが刷り込んだ“消費税の目的”の嘘
“社会保障の充実と安定化”のための増税という謳い文句とは正反対の現実
斎藤貴男 ジャーナリスト
尻すぼみに終わった「老後2000万円問題」
例の「2000万円問題」を、改めて考えてみよう。さる6月、政府の審議会が公表した報告書に、“今後の日本社会で高齢夫婦が老後を暮らすには、支給される公的年金の他に約2000万円が必要になる”旨が書かれていて、日本中が大騒ぎになった、あの問題だ。
だからどうするべきなのか、という問題提起ではない。金融庁長官の諮問を受ける「金融審議会」の「市場ワーキンググループ」が、あくまでも金融サービス事業者向けに、だからこういう金融商品を作って売ったら儲かりまっせ、と“啓蒙”するのが狙いの文書であり、2000万円うんぬんは、その前提となるデータとして提示されていたのにすぎない。
目的はどうあれ、それでも多くの国民は反発しかけた。官邸前の抗議集会や、デモがあった。野党も結束して追及した……かに見えた。だが、やがて尻すぼみになり、7月の参院選でも、さしたる争点にはならなかった。
原因は明確でない。野党のだらしなさ、権力になびく一方のマスメディアといろいろあるが、それだけでは説明できない。しかし、そうなった決定的な背景が、私にはわかるような気がする。

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消費税率は上がれど悪化する社会保障
1988年のことである。ある不動産会社が、自社商品の宣伝本を出版した。題して『パートナーシップ』。一言に要約すると、こんな内容だった。
日本銀行の試算によれば、現役を退いた高齢夫妻の老後は公的年金だけでは賄えず、平均でざっと1500万円の貯蓄が必要です。だから皆さん、当社のワンルームマンションに投資して、安心な老後に備えましょう。
時はまさに金ピカ・バブル経済の真っ盛り。週刊誌の記者だった私は、その本を地上げ絡みのネタ元にさせてもらっていた同社幹部にプレゼントされ、思うところあって、大切に保管してきた。
消費税が導入されたのは翌89年。“高齢化社会への対応”が前面に打ち出され、紆余曲折を経てのスタートだったが、その後も同じ理由が繰り返し掲げられ、税率が3から5、8%へと引き上げられて、ついには2桁の大台に乗ろうとしている。
考えてももらいたい。いくらなんでも、おかしすぎはしないか。
消費税の導入前は1500万円の不足。税率10%を目前にした現在は2000万円の不足。何も変わっていない、どころか、事態はかえって悪化している。いったい何のための消費税だったのか。