2019年09月19日
前回書いたのは、光州市のメインストリートを埋め尽くす、日本批判の横断幕のことだ。
「反省も謝罪もない不良国家日本打倒!」「ボイコットジャパン 行きません 買いません 歴史的真実を否定する日本打倒!」のような文字列。
韓国で長く暮らした私は、韓国語を読むのも聞くのもほとんど苦労しないが、でも、急いでいる時は文字が目に入らない。母国語ではないため理解にワンクッションあり、自分に辛い言葉でも痛みが緩和される。母国語と外国語、ネイティブと第2言語の差は、方言などにも似ている。
理解のために別の例をあげると、西日本には女性器を表す「ボボ」という言葉があるそうだ。中部地方出身の私は今それを書くのになんら抵抗はないのだが、ネイティブの人々は違うらしい。大昔、ボボ・ブラジルというレスラーがいた頃の話を、九州出身の友人から聞いたことがある。「少年たちは、その名前だけで興奮した」という。
そこで考えたのは、ここで生まれた在韓日本人の子どもたちのことと、日本で生まれ育った在日コリアンのことだ。彼らのほとんどが、現地語がネイティブのマイノリティである。
前回も書いたように、韓国の人々は日本人観光客には親切だ。韓国を旅行して嫌な思いをしたという声はほとんど聞こえてこない。
「じゃあ、在韓日本人も大丈夫ですね?」
いや、それはちょっと待った。この時期、在韓日本人が全然平気なわけがない。一番心配なのは、韓国の学校に通っている子どもたちだ。
「日本人の子どもたち」といった場合、その多くは両親のどちらかが日本人という、国際結婚(韓国では多文化家族という)の子どもたちだ。ほとんどが日韓二重国籍で、中にはインターナショナルスクールや日本人学校を選択する場合もあるが、圧倒的多数は韓国の現地校(小中高)に通っている。
「子どもたちは、大丈夫?」
日本人の親に尋ねると、「心配しているけど、今のところ問題ないみたい」という答えが多い。でも、注意しなければいけないのは、子どもというのは学校で起きたことを何もかも親に話すわけではないということだ。特に日本に関連することは、日本人の親に言わない子も多い。
少し前のことだが、在韓の友人の娘さんは小学校の運動会に際し、「ママは午前中は来ないで」と言ったそうだ。母親が訝(いぶか)しがってプログラムを見たら、午前中の最後に「全校群舞・独島は我が領土」があったという。当時、この娘さんは小学校2年生、子どもながらに悩んで、母親にそう言ったのだと思う。
今回日韓関係が悪化している件でも、日本製品の不買運動が学校でも呼びかけられており、つらい思いをしている子どもは多いと思う。夏休みに日本の実家に帰ったことを秘密にしてくれと親に言った子もいる。
「学校ではつらい思いもしましたよ。いじめとかではないんですが……。お母さんには言えなかったですね。お母さんもおばあちゃんに怒られたり、大変だったし」
すでに成人している、在韓日本人2世の女性にインタビューした時、そんな話も色々聞いた。
嫌な思いをしても、それが国籍や民族に関することだと、なおさら親には言えない――という経験は、在日コリアンの人々にも共通だと思う。
「そんなのばっかでしたよ。子どもの頃もいろいろありました」
在日コリアンの友人たちは言う。
「そもそも、うちの親
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