永田町政治の興亡・令和(1)/鮮明になった「安倍・岸田」対「二階・菅」の構図
2019年09月27日
10月12日の「論座」のイベント「トークライブ・令和を担う国会議員5人と星浩キャスターが考える 日本の政治 どう拓く?」のお知らせです。国内外で混迷が続くなか、令和の政治は一体どこに向かうのか?「論座」のレギュラー筆者でTBS「ニュース23」キャスターの星浩さんが、自民党議員をゲストに迎えて語りあいます。ここでしか聞けない討論です。申し込みはこちらから→【申し込み】
政治記者の仕事は、政治家や官僚の中に独自のニュースソースをつくり、その発言の変化を読み取ることだ。私が長年、取材してきた霞が関の幹部官僚が最近、ポツリと語った内容にドキッとした。
「総理官邸や自民党本部に行くと、ひしひしと感じるんですよ。政権内に安倍・岸田対二階・菅という亀裂が入っていることを」
安倍晋三首相は7月の参院選を乗り切って、9月11日に自民党役員人事と内閣改造を済ませた。テレビのワイドショーをはじめ、メディアは小泉進次郎氏の環境相就任で持ちきりだが、その底流で静かに動いている政権内の地殻変動を、この官僚は見逃さなかった。
内閣改造に先立って、安倍首相は岸田文雄政調会長を幹事長に昇格させる人事の根回しに動いた。二階俊博幹事長に「岸田幹事長、二階副総裁」案を持ちかけたが、二階氏は平然と切り返したという。
「総理、あなたは憲法改正を動かしたいのでしょう。それには公明党と話をつけなくてはいけない。岸田君で、それができるかな」
安倍氏はすぐに岸田幹事長案を引っ込めた。二階幹事長の留任が確定。岸田氏も政調会長続投となった。
政治家の秘書からたたき上げて、自民党、新生党、新進党、自由党、保守党と渡り歩いて自民党に復党。いつの間にか派閥領袖、総務会長、幹事長にのし上がってきた二階氏。首相が提示した人事案をつぶすからには、それなりの勝算があったはずだ。
それは、安倍首相の最側近、菅義偉官房長官との連携である。
2012年末に第2次安倍政権が発足して以来7年近く、官房長官として政権を支えてきた菅氏。沖縄の基地問題や森友・加計学園での冷徹な対応は、世論の批判も浴びたが、霞が関の官僚群には、人事権を使ってにらみをきかせてきた。前天皇の生前退位から新天皇の即位を取り仕切り、新元号「令和」発表で知名度は急上昇。「ポスト安倍」の候補に名が上がってきた。
その菅氏が目を凝らしてきたのが、安倍首相の党役員人事と内閣改造だ。岸田氏を幹事長に起用して党務を仕切らせた後、後継の総裁・首相に指名するのではないか。そう察知した菅氏は二階幹事長と連絡を取り合った。
この乱世に岸田氏で総理は務まらない――。
2人の認識は一致した。まずは「岸田幹事長」を阻止しなければならない。連立政権の現状でいまの自民党幹事長に必要な「公明党とのパイプ」が岸田氏には欠けている。その点を突けば、安倍首相の人事構想を崩せる。そんな共通認識が、二階氏の牽制(けんせい)に対する安倍首相への反応につながった。
そもそも、安倍首相が岸田氏を後継に推そうとするのはなぜか。
1993年の当選同期。タカ派の清和会の安倍氏とハト派の宏池会の岸田氏だが、個人的には信頼関係を築いてきた。岸田氏が第2次安倍政権の発足から4年7カ月、外相として「安倍外交」を支えたことも、安倍氏の岸田氏評価につながっている。
しかし、二階、菅両氏の岸田氏評価は違った。「戦わない政治家」「官僚任せの政策では改革は進まない」と手厳しい。80歳の二階氏、70歳の菅氏を飛び越えて62歳の岸田氏が首相に就けば、世代交代が一気に進む。その動きを阻みたいという思いも、二階、菅両氏にはあるだろう。
菅氏の政治の師だった梶山静六氏は、橋本龍太郎内閣で官房長官を務めた後、不良債権の早期処理を中心に「破壊と創造」を唱え、大胆な改革を訴えた。橋本氏の後継を選ぶ総裁選に出馬し、小渕恵三、小泉純一郎両氏と戦った。「軍人、凡人、変人の争い」(田中真紀子氏)と揶揄された総裁選で梶山氏は敗れたが、「ハード・ランディング」と呼ばれた改革路線は、官僚・財界の一部では高く評価された。
ポスト安倍で動き出す政局で菅氏の脳裏をよぎるのは、かつての梶山氏の思いだろう。
二階幹事長、岸田政調会長、麻生太郎副総理・財務相、菅官房長官など政権の骨格は変わらず、茂木敏充外相、加藤勝信厚労相などポスト安倍をうかがう実力者も要所に廃して改造内閣はスタートした。「二階・菅」対「安倍・岸田」の構図は今後、どうなっていくのか。
まず、10月4日に臨時国会が召集され、12月上旬まで野党側は安倍政権の外交や社会保障などを追及する。10月22日には新天皇即位の儀式がある。12月中・下旬には来年度予算案編成。年が明けて1月からは通常国会が始まる。夏には東京五輪・パラリンピックである。
一方、安倍首相の自民党総裁任期は2021年9月。現在の衆院議員の任期(4年)は同10月までである。この間に安倍首相は大きな決断を迫られる。
それは、衆院の解散・総選挙にいつ踏み切るのか、それとも解散しないまま退陣して、解散は後継総裁・首相の手に委ねるか、である。
当面、解散の時期として考えられるのは①今秋の臨時国会終盤の11月下旬か12月上旬②来年(2020年)通常国会冒頭の1月③通常国会終盤の6月――などだ。①と②の解散・総選挙だと、20年度予算の成立は大幅に遅れる。消費増税で景気が落ち込みそうな情勢で、予算成立の遅れは避けたいのが安倍首相の本音だろう。③は五輪直前となり、日程上は困難視されている。結局、衆院の解散は五輪後の来年夏以降という見方に落ち着く。
その時点で、安倍首相はさらに政権を継続するのか、総裁任期を1年残して退陣し、後継者に政権を委ねるのか。まさに安倍首相の腹一つである。
自民党の総裁選は任期満了の場合、地方党員と衆参の国会議員の投票によって行われる。安倍首相は2012年と18年の総裁選で勝利しているが、いずれも対立候補の石破茂氏が地方党員票で健闘。安倍氏を脅かした。21年も任期満了の総裁選になれば、石破氏が立候補し、多くの党員票を集めるのは確実だ。逆に任期途中で首相退陣―総裁選となれば、国会議員中心の投票となり、弱小派閥の石破氏は苦しい。
安倍首相だけでなく、菅、岸田両氏らの共通認識は「石破総裁だけは阻止したい」だろう。であれば、任期途中の首相退陣と国会議員による総裁選で石破氏を封じようという動きが出てきても不思議ではない。
こうして政局の読みを進めると、来年(2020年)秋の「安倍首相退陣→総裁選」の可能性が見えてくる。とすれば、「安倍・岸田」対「二階・菅」という構図が、年内の臨時国会から来年の通常国会まで政局の底流になっていくのだが、そのときの対立軸は何か?
改憲に前向きな安倍首相と護憲の宏池会会長の岸田氏とでは、憲法問題で隔たりがあることは否めない。しかし、首相を退いた後も自民党の派閥領袖として改憲を進めたい安倍氏としては、護憲の岸田氏を改憲に巻き込むことで自民党全体をまとめたいという計算がある。
一方、菅氏は梶山氏とともに小渕派(経世会)を離れた後に宏池会に所属していたこともあり、憲法改正の優先順位は高くない。二階氏も「憲法改正よりも景気対策」が持論だ。宏池会名誉会長で岸田氏の後見役である古賀誠元自民党幹事長が、改憲に慎重論を唱え、「菅氏は有力な総裁候補」と明言していることが、宏池会内部にどこまで影響力を持つかが見どころだ。
財政や社会保障では、安倍、岸田両氏が年金問題などで「微調整」による手直しを唱えているのに対して、菅氏は社会保障や税制の抜本改革をにらんでいる。師の梶山氏が掲げた「ハード・ランディング」の精神が菅氏にも流れているようだ。
なによりも、安倍・岸田対二階・菅の分かりやすい対立構図は、世襲対たたき上げである。安倍氏の祖父は岸信介元首相、父は安倍晋太郎元外相、岸田氏も祖父、父とも自民党衆院議員で、2人とも典型的な世襲議員。恵まれた環境で育ってきた。
一方、二階氏は和歌山、菅氏は秋田からそれぞれ上京し、苦学して大学を出た後、政治家秘書となり、地方議員を経て国会議員にたどり着いた。ともに典型的なたたき上げ政治家である。
こうした構図の中で、ポスト安倍をにらんだ自民党内の権力闘争がじわりと動き出す。30年余の「平成政治」は、政治改革、消費税、国際貢献などをテーマに、自民党内の抗争から野党をも巻き込んだ政争が繰り広げられた。「安倍一強」の体制にも陰りが見え始めたいま、令和の政治はどう展開するのか。「永田町政治の興亡・令和編」を随時、リポートしたい。
◇
昨年秋から今年6月まで「論座」に連載した「平成政治の興亡」が、大幅加筆のうえ『永田町政治の興亡 権力闘争の舞台裏』(朝日選書)として10月10日に出版されます。ぜひ、お読みください。
トークライブ「令和を担う国会議員5人と星浩キャスターが考える 日本の政治 どう拓く?」のお知らせ
『永田町政治の興亡 権力闘争の舞台裏』(朝日選書)の出版に合わせて10月12日にトークイベントを開催します。星浩の基調講演のあと、自民党の政策通政治家5人との討論を予定しています。参加無料。開催要領は以下の通りです。
◇開催日
2019年10月12日(土)14:30~16:30(開場14:00)
◇場所
ヤフー株式会社本社17階セミナールーム(東京都千代田区紀尾井町1-3紀尾井町タワー)
◇ファシリテーター
星浩(ほし・ひろし)
TBSニュース23 報道キャスター
◇ゲスト
・伊藤達也・自民党衆院議員
1961年生まれ。慶應義塾大学卒。松下政経塾を経て、1993年衆院選で初当選。金融担当大臣などを歴任。当選8回。東京22区
・木原誠二・自民党衆院議員
1970年生まれ。東京大学卒。大蔵官僚を経て、2005年衆院選で初当選。外務副大臣などを歴任。当選4回。東京20区
・斎藤健・自民党衆院議員
1959年生まれ。東京大学卒。通産官僚、埼玉県副知事を経て、2009年衆院選で初当選。農水大臣などを歴任。当選4回。千葉7区
・福田達夫・自民党衆院議員
1967年生まれ。慶應義塾大学卒。三菱商事勤務を経て2012年衆院選で初当選。防衛大臣政務官などを歴任。当選3回。群馬4区
・松川るい・自民党参院議員
1971年生まれ。東京大学卒。外務省に入り、女性参画推進室の初代室長などを歴任。2016年参院選で初当選。当選1回。大阪選挙区
◇チケット申し込み
定員150名(先着順) 無料
申し込みは「Peatix」の「論座」のページから→【申し込み】
◇星浩さん新刊本サイン会
トークライブ終了後、会場内で「論座」の連載に加筆した最新刊『永田町政治の興亡 権力闘争の舞台裏』の販売とサイン会を行います。ご希望の方はお残りください。
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