あいちトリエンナーレ補助金不交付の支離滅裂
法的根拠も合理性もなし。法の支配を歪め、行政運営の根本も揺るがす過った決定
米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士

文化庁の前で、「表現の自由を守れ」「検閲反対」などと抗議する人たち=2019年9月26日、東京都千代田区
「あいちトリエンナーレ2019」に対して、審査され採択が決まっていた約7800万円の補助金について、文化庁がこれを覆して全額を不交付にしたことが議論を呼んでいます。
そもそも「表現の自由を損なう」という点で大きな問題だと思いますが、私はそれと同等かそれ以上に、「法の支配を歪める」「行政の安定的運営を損なう」という点においても極めて問題が多いと思っています。日本の行政が危機に瀕しているといっても過言ではありません。
表現の自由を大きく損ねる決定
まず「表現の自由」についてですが、不交付決定に関して文化庁が示している“公式な理由”はさておいて、その実質的理由が、「あいちトリエンナーレ2019」の一部である「表現の不自由展・その後」で議論を呼ぶ展示がなされ、その展示に対して反対派から多数の抗議がなされると同時に、観客に危害を及ぼす旨の脅迫があり、安全上の理由から「表現の不自由展」が中止されるに至った事であるのは明白です。
すでに多くの方々が指摘している通り、いったん公的支援を決めた展示について、その表現の内容や、それに対する抗議を理由に、後付けで補助金を交付しないという極めて不利益な決定を行政が行うことは、行政が実質的に、表現内容を理由に表現者及び関係者に不当な不利益を与えることになり、「表現の自由」への行政の不当な介入だと考えられます。
このような行政の不当な介入が正当化されるなら、当然ながら表現は委縮します。文化庁は、事業採択の審査に当たって、必要な情報が事前に申告されなかった事を問題視していますが、表現に対する抗議などを事前に予想することはほとんど不可能です。そうした理屈が通るなら、議論を呼ぶような冒険的な展示については、事後の介入が怖くて公的補助は受けられなくなってしまいます。
今回の文化庁の決定は、行政から見て、問題なく当たり障りのない表現だけを保護することにつながり、日本の表現の自由を大きく損ね、極めて不適当だと私は思います。
ただ、それと同等、いやそれ以上に、私はこの不交付決定は冒頭で挙げた「法の支配を歪める」「行政の安定的運営を損なう」という点において、ゆゆしき問題をはらんでいると思います。以下、詳しく論じさせていただきます。

展示が中止された「表現の不自由展・その後」=2019年7月31日、名古屋市東区の愛知芸術文化センター