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世界各国で分断が進む。国際危機は回避できるか?

世界のバランスは変わった。西側体制の優越性を説くことは説得力を持たなくなっている

田中均 (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

世界のバランスが変わった

 世界は様変わりした。私は今年に入って、米、中、韓、東南アジア、欧州の国々を廻り、アジア・米・欧州の三極委員会や日英・日韓賢人会議などに参加してきたが、もはや力強い指導者米国の影は薄い。

 新興国の体制に比べ、先進民主主義国の体制が優れていることを強調する人も少なくなった。トランプ大統領の所作を見れば、民主主義社会が依って立つ人権の尊重、法の支配、手続きの透明性等の価値観をベースに議論する事すらはばかられる様になってしまった。

 中国に比し西側先進民主主義体制の優越性を説くことは、もはや説得力を持たなくなっているのかもしれない。

拡大G7サミットのセッションに臨む(左から)イタリアのコンテ首相、安倍晋三首相、トランプ米大統領、フランスのマクロン大統領、ドイツのメルケル首相、カナダのトルドー首相、英国のジョンソン首相=2019年8月26日、フランス・ビアリッツ

 トランプ大統領の世界は、決して理念や論理に基づくものではなく、圧倒的力を背景に相手を脅し、相手を組み伏せることを意図している。トランプ大統領にとって国際的ルールの尊重や同盟国との協調の重視といった諸点への配慮は二の次のようだ。

 またアメリカ国家安全保障会議(NSC)、国務省、国防省などの高官が次々と更迭されるか辞職しており、トランプ大統領をプロフェッショナルに支える機能も十分ではない。従来とは全く異なるスタイルのトランプ外交は、非エリート層に分り易い「アメリカ・ファースト」の施策を追求している。

 韓国も激しい国内の分断が対外関係に大きな影響を与えている。国民性や歴史的背景に起因するのであろうか。韓国の政権交代はほぼ例外なく前任の大統領が起訴収監されるといった結果をもたらしている。

 これも保守・革新の思想的分断がいかに顕著であるかを示している。文在寅大統領は自殺した盧武鉉元大統領の側近であり、市民活動家として社会の革新勢力に強い政治基盤を持っている。特に対北朝鮮融和主義には顕著なものがあり、最近の国連演説でも本来韓国に直接的脅威になる北朝鮮による10回の短距離ミサイル発射実験には一言も触れず、現実とは程遠い非武装地帯を平和地帯とする理念的な構想を掲げた。

 しかし米国訪問・国連演説後の文在寅大統領の支持率が法務大臣任命のゴタゴタがあった後であるのにも拘らず、相当上昇している事に示されるとおり、国内の基盤は強い。

 このような内政が色濃く対外関係に反映された世界で、勢力バランスは変わりつつある。朝鮮半島ではトランプ大統領の再選戦略次第では一挙に対北朝鮮融和主義に傾く危険もある。韓国や中国、ロシアは同様の路線をとるのだろう。

 中東ではイラン核合意を維持する欧州・ロシア・中国と対イラン強硬論を追求する米・イスラエル・エジプトが分断されつつある。米中貿易戦争が長引き、世界経済への深刻な影響が出だせば、米国の指導者としての信頼性は一層傷ついていくのだろう。

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筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。

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