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統一会派を結成した野党が次にするべきこと

根が深い有権者の野党不信を払拭するためには清新な人材が主導する必要がある

田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

立憲民主党定期大会で、国民民主党の玉木雄一郎代表(左)と握手を交わす枝野幸男代表=2019年9月30日、東京・永田町の参院議員会館

 秋の臨時国会は10月4日に召集され、12月初旬まで続く見通しとなっている。この会期中は、10月22日の「即位令正殿の儀」、11月14日の「大嘗祭」をはじめ、皇位継承に伴う重要行事が目白押し。国会もしばしば“開店休業”を余儀なくされる。

 しかし、皮肉なことに、この間は国内外の多くの課題がヤマ場を迎えそうだ。日韓関係はもとより、消費税増税、不透明な景気動向、日米貿易協定、「財政検証」などである。国会で審議し議論しなければいけない時間は、いくらあっても足りない情勢である。

 一方、安倍晋三首相は、この秋の政局を乗り切るために、9月初めに自民党役員人事と内閣改造を断行。人気者の小泉進次郎氏を環境大臣に起用したこともあって、メディア各社の世論調査では内閣支持率が軒並みアップしている。

 このような政権側の基盤強化は、バラバラだった野党各党をあわてさせ、にわかに結集に向けての行動を促すことになった。

ベンチャー政党として「不合格」の立憲民主党

 さる9月19日、立憲民主党の枝野幸男代表、国民民主党の玉木雄一郎代表、「社会保障を立て直す国民会議」の野田佳彦代表が会談し、臨時国会前に統一会派を結成することを決めた。衆議院、参議院ともに会派名は、それぞれの名称を連ねた長ったらしいものになったが、ともあれこれによって衆議院で117人、参議院で61人という、第2次安倍政権発足以来、最大の野党会派が生まれた。これが一歩前進であることは確かだ。

 立憲民主党の枝野代表は9月30日に開いた党大会で、統一会派を結成する過程で「ベンチャー政党である現実と、政権交代を実現するという役割とのギャップに苦慮してきた」(10月1日付日経朝刊)と述べたという。その心境はよく理解できる。

 単独行動主義をとるように見えた立憲民主党は、この7月の参院選の比例区で、結党直後の2017年秋の衆院選比例区で獲得した票数から300万票ほど減らした。破滅的な結果といっていい。今後、立憲民主党がどちらの方向に向かうかは別にして、“ベンチャー政党”としては有権者から「不合格」と認定されたと、彼は受け取ったのであろう。

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野党不信の淵源は反省が「形」になっていないこと

国会内で開かれた衆院会派「立憲民主・国民・社保・無所属フォーラム」の合同会議=2019年10月2日
 しかし、問題の根はもっと深い。立憲民主党をはじめとする野党が国民から支持を得られない、もっといえば国民のなかにある不信を払拭(ふっしょく)できない淵源(えんげん)は、やはり2009年から3年余の民主党政権の歴史的な失敗であろう。

 枝野代表は8月末、民主党政権成立から10周年を機に次のように語っている(8月30日付毎日新聞朝刊)。

 「期待に応えられなかった反省と、同じ過ちを繰り返さないということでやってきたつもりだ」

 「反省している」とか、「お詫びする」とかいった言葉は、誰でも何度でも言うことができる。問題は、反省が「形」になっていないこと、お詫びが「形」になっていないこと。そこにこそ、有権者の抜きがたい不信の核心がある。特に「ムダ使いをなくす」といいながら、公約にない消費税増税に走った民主党政権の背信的な行為は、口先のお詫びだけで到底許されるものではない。

枝野氏は一歩引き、玉木氏に任せてみては

 私がいう「形」とは、明確な出処進退だ。今回の統一会派が公約違反の増税に走った民主党政権時代の幹部によって主導されるなら、成果はきわめて少ないものになろう。今はそれぞれ違うユニホームでも、かつては同じユニホームの選手であったことを国民はよく知っている。

 統一会派の延長線上に生まれるものが、民主党や民進党の“亡霊”のようなものであってはならない。安倍首相はしきりに「悪夢のような民主党政権」と口にする。それに対して、有効な反論をするためにも、指導者の顔ぶれは変えるべきであろう。

 本来なら、民主党政権を失敗させた当時の内閣や党の指導者は、国政選挙への立候補を辞退するのが筋だろう。もしそれができないのなら、少なくとも新しい態勢に加わることは遠慮するべきだろう。

 仮に、新しい統一会派が清新な人材によって運営されるなら、国民からの支持が一気に集まる可能性がある。そうなれば、枝野代表が打開できずに苦しんだ手詰まり感を解消することも、そんなに難しいことではない。

 たとえば枝野代表は、自分が一歩引いて、国民民主党の玉木代表に新しい集団を任せることを考えてもよいのではないか。「柱」をかえると、当事者でさえ驚くほど大きな展開が始まるものだ。

立憲民主党定期大会で、手を取り撮影に応じる(右から)社民党の又市征治党首、立憲民主党の枝野幸男代表、国民民主党の玉木雄一郎代表、衆院会派「社会保障を立て直す国民会議」代表の野田佳彦前首相=2019年9月30日、東京・永田町の参院議員会館

外部の人材を受け入れる用意も必要

 さらにもう一つ言うならば、統一会派の延長線上に第一党や政権樹立を展望するためには、新しい人材のために「席」を空けて待つ姿勢がなければならない。大きな政治的転換、時代の転換には、彗星(すいせい)のように現れる人材が、どうしても必要だ。

 振り返れば、平成のはじめ、1993年の衆院選で戦後長らく続いた「55年体制」を打ち壊し、自民党を下野に追い込んだ細川護熙・元首相は、そうした人材の典型であった。

 今回の統一会派が一定の成果を挙げたら、次の衆院選までに、政界の外にいる優れた人たちに全面的に統一会派の指導を委ねるという大胆な試みも、真剣に考えたらどうかと私は思う。

 令和が始まったばかりの日本だが、それほどまでに時代は差し迫っているのである。過去に拘泥し、将来に向けた大胆な一歩に踏み出すことを逡巡(しゅんじゅん)している時間的な余裕は、もはやない。

 あのカール・マルクスの「歴史は繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」を思い起こす。今回、野党が失敗をすれば、とてものんきな喜劇ではすまされない。日本政治に立ち上がれないほどの深刻な悲劇をもたらすかもしれないことを、我々は心に刻んでおくべきであろう。

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