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「文化守らぬ文化庁」今も昔も

トリエンナーレへの補助金不交付に、映画『靖国 YASUKUNI』李監督は何を思う

石川智也 朝日新聞記者

2008年『靖国 YASUKUNI』異例の国会議員向け試写会

 2008年3月12日、中国人監督李纓(リ・イン)が撮ったドキュメンタリー映画『靖国 YASUKUNI』を国会議員向けに上映するという異例の試写会が開かれた。

 これは、今回の「トリエンナーレ」問題と同様、内容を反日的と聞いた一部の政治家が公的助成を問題視して試写を求めたことがきっかけだった。その後、右翼の抗議や嫌がらせ電話が上映予定館に相次ぎ、封切り館だった東京と大阪の5館がすべて上映を取りやめ大きな社会問題となったので、覚えている方も多いだろう。

 日本新聞協会や日本ペンクラブなどが次々と表現の自由の危機を訴える声明を出すなか、自民党議員が作中の主要登場人物である刀匠に連絡を取り出演に承諾したのか確かめ、それに監督側が「明らかに検閲だ」と反発するなど、騒動は日に日に大きくなった。

拡大2008年3月27日朝日新聞朝刊の筆者の記事
 試写を求めた「一部の政治家」とは自民党の稲田朋美衆院議員とそのグループだったが、その動きを事前の3月9日朝刊で大きく報じたのが朝日新聞で、その記事を書いたのが私だった。

 この試写には実は文化庁が大きな役割を果たしている。やや微に入るが、当時の極めて不明朗な文化庁の動きを、あらためて振り返ってみる。

 映画を観たいという稲田議員の要請を受け、文化庁は配給会社に「ある議員が内容を問題視している。事前に観られないか」と問い合わせた。配給会社はマスコミ向け試写会を案内したが、稲田議員側の都合がつかないとして、再度「試写会場を手配するのでDVDかフィルムを貸してほしい。費用はこちらで負担する」と持ちかけた。これが試写会1カ月前のことだ。配給会社は「特定の思想・立場の人たち限定の試写はおかしい。事実上の検閲だ」と難色を示し、両者の協議の末に、衆参の全議員に試写の案内を送ることが決まった。

 文化庁はすぐに東京都内のホールを押さえたが、この件を知った私が担当の芸術文化課を取材し費用支出の名目などを問い合わせると、直後、配給会社に「試写会の経費負担をお願いすることでよろしいですね」と連絡した。配給会社側が「話が違う。こちらが望んだ試写会ではない」と憤ったのは当然だ。

 私の確認取材に同課は「文化庁負担では予算の名目が立たない。全議員向けに趣旨が変わった時点で、配給会社側に支払ってもらうつもりだった。伝わっていなかったとしたら行き違い」と説明を二転三転させた。当初「こちらで負担します」と持ちかけたことについては「文化庁が払いますという意味ではなく、後で稲田先生側に請求する予定だった」とあくまで言い張った。

 試写会当日、文化庁がそもそもは稲田議員らのために手配したホールでは、稲田議員グループの出席者をかいがいしく取りまとめる芸術文化課の職員らの姿があった。

 もう少し続ける。

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筆者

石川智也

石川智也(いしかわ・ともや) 朝日新聞記者

1998年、朝日新聞社入社。社会部でメディアや教育、原発など担当した後、特別報道部を経て2021年4月からオピニオン編集部記者、論座編集部員。慶応義塾大学SFC研究所上席所員を経て明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所客員研究員。著書に『さよなら朝日』(柏書房)、共著に『それでも日本人は原発を選んだ』(朝日新聞出版)、『住民投票の総て』(「国民投票/住民投票」情報室)等。ツイッターは@Ishikawa_Tomoya

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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