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「患者とともに生きる」精神宿った医療改革を

「患者のため」だけでは医療者が疲弊してしまいバーンアウトを招いてしまう。

高本眞一 東京大学名誉教授、医師

医療者と患者は同格

 医師が知っている医学の情報は生命が絡む病態のすべての情報から考えると極めてわずかなことです。その知識は数年後には間違った情報になる可能性もあります。

 患者にとって一番働いているのは患者の持つ回復力や生命力です。患者の生命の力は、生きるように病気が治るようにという方向で働いています。医師は、患者の生命力ができるだけ正しい方向に向くようにガイドをしているだけなのです。

 ですから医師と患者の関係は、医師が医学上知識としてよく知っているということで患者の上に立つのではなく、同格であり、医師は患者とともに生きなければならないのです。

 患者は医療の中で癒し(いやし)が欲しいと思っていますが、医師や医療者も日常的にストレスを多く抱え、癒しを求めたいと思っています。患者も医師もお互いに理解し合ってこそ、癒しを得ることができると思います。

認知症から広まる「ユマニチュード」

 最近、認知症について「ユマニチュード」という患者との交流方法が話題になっています。認知症の患者に医療者の言うことが通じず、交流が全くできないことが多くの施設で問題になっています。

 「ユマニチュード」は、医療者が認知症の患者を“人間らしい”存在としてその気持ちを理解し、大切に扱う思想や技術のことで、認知症の患者の気づき方、考え方などをよく理解して、体を近づけ、視線を合わせ、優しく体に触れて、話しかけるなどの方策を用います。フランス人のイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティにより提唱されました。日本には2012年、国立病院機構東京病院センターの総合内科の医師をしていた本田美和子さん(HSP2期生)が導入し、今年10月には日本ユマニチュード学会として発展することになりました。

 “人間らしい存在”というのは、相手の喜びも悲しみも自分のことと同じように感じあう人間として交流することです。ここまで述べてきた“患者とともに生きる”生き方であると言っていいと思います。

拡大Glowonconcept/shutterstock.com

我慢や理解し合う情熱が必要

 「ともに生きる」は、人間の理性、感性、霊性、情熱などを考慮し、現実の世界で生命を持って生きている人間のあるべき生き方で、哲学的な思想と言ってもいいでしょう。

 私たちはいつも思った通りのことが出来るわけではありません。すべての人が全く同じ考えで同じ行動をするわけでもありません。性格、特徴など人によって考えは違うし、目標やそこへの到達方法も違うので、時にはぶつかり合うことがあります。しかし、そのような場合でも、対話をし、協力できることから始めるような、分裂状態を乗り越える情熱を持つ必要があります。その意味では我慢も必要ですし、甘くないことを自覚しながら、根気よく相手を理解しあうように努力しなければなりません。

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筆者

高本眞一

高本眞一(たかもと・しんいち) 東京大学名誉教授、医師

1947年生まれ。松山市で育つ。1973年東京大学医学部卒業。三井記念病院、ハーバード大学医学部、国立循環器病センターなどを経て、東京大学医学部胸部外科教授、日本心臓血管外科手術データベース機構代表幹事、医療政策人材養成講座設立、その後三井記念病院院長。日本心臓血管外科学会名誉会長。著書「患者さんに伝えたい医師の本心」など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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