脛に傷もつ父子を米民主党はどうする
2019年10月15日
ドナルド・トランプ大統領に対する米国下院での弾劾のための審問手続きがスタートした。2020年大統領選でライバルとなるかもしれない民主党の有力大統領候補、ジョー・バイデン前副大統領を追い落とすために、トランプがその権力を使ってウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とのバイデンの息子ハンターのウクライナにおける犯罪捜査を強化するように圧力かけたとされる問題などが審議される。
このサイトの記事、「トランプ弾劾審議の源流はバイデン父子の腐敗問題」で指摘したように、バイデン父子がウクライナで「不正行為」に絡んでいたことは以前から知られていた。今回は、ウクライナにおいて父ジョーが悪巧みをする連中を守る「屋根」の役割を果たし、その「見返り」に息子ハンターがおこぼれを頂戴していたという構図を明確に示したい。
ウクライナでもロシアでも、ソ連崩壊後、社会主義から資本主義への移行途上で、それまでの統治で重要な役割を果たしてきた国家保安委員会(KGB)、警察などの治安維持機関が混乱し、そうしたなかで身の安全を守ってくれる「屋根」が求められるようになる。組織犯罪グループ(マフィア)やKGBの後継機関などに近づき共謀関係を構築し、それまでソ連国家が所有してきた石油・ガスなどのさまざまの資産を奪取する動きが広がる。
支配権を握る政治家と癒着してビジネスで儲ける、いわゆる「オリガルヒ」(新興財閥)も台頭する。政治家、マフィア、治安機関らが秩序を維持する「屋根」となり、そのもとでオリガルヒがカネを儲けてその一部を「屋根」に還流するのである。
ウクライナの場合、2004年から05年にかけてのオレンジ革命で、米国政府が直接・間接に支援したヴィクトル・ユーシェンコが大統領になったものの、ウクライナは混乱し、親ロシア派とされるヴィクトル・ヤヌコヴィッチが2010年2月、大統領に就任する。
公正な選挙が行われたかどうかは疑問だが、それでも民主的に選ばれた大統領であったことは間違いない。にもかかわらず、彼を再び米国の支援を受けたナショナリストらが武力で掃討する事件が2014年2月に起きる。その後、親米のペトロ・ポロシェンコ大統領が誕生する。この過程で、ウクライナ問題を担当していたのが父ジョーであった。
権力の交代が権益配分に直結するため、オリガルヒらは政治家と癒着しつつ、自らの権益を拡大すべく腐心する時代がつづいたことになる。こうした国情を理解していれば、権力者を「屋根」とすべくすり寄る動きに冷静沈着に対処すべきであったのだが、バイデン父子はウクライナのかかえる「罠」にかかってしまったのである。
その構図を示そう。まず、ハンターが取締役となって守ろうとした会社、石油ガス会社のブリスマ・ホールディングスの創設者、ニコライ・ズロチェフスキーがオリガルヒの一人であるところからはじめたい。
こうした事情から、バイデン父子はウクライナにおいてもっと慎重に行動すべきであったことは間違いない。ただ、息子ハンターは中国でウクライナと同じやり口でカネ儲けをした経験をもっていた。
2008年9月、弁護士のハンターはコンサルティング会社、セネカ・グローバル・アドヴァイザーズを設立する。父の副大統領就任後5カ月して、2009年6月、ハンターはローズモント・セネカ・パートナーズ投資ファンドの共同創設者となる。そのなかには、デヴォン・アーチャー(当時のジョン・ケリー国務長官家の友人)もいた。
アーチャーは2013年11月、中国の民間ファンド、Bohai Capitalを管理する台湾のジョナサン・リーとともに新しいBHR Partnersを設立し、このファンドの理事会メンバーにハンターもなる。この理事就任で巨額の報酬を受け取る。2013年12月、父が北京で習近平総書記に会う出張に同行したハンターはホテルで父にリーを紹介したとされている。
このように、バイデン父子は明らかに脛に傷をもつ。そんな親子を米民主党がかばうとすれば、米国の選挙民は民主党を見限りかねない。マスメディアがバイデン父子を支援しようとしても、そのひどさはソーシャル・メディアを通じて多くの国民に知れ渡るだろう。
この問題をめぐって、トランプ大統領がゼレンスキー大統領に圧力をかけたとされる権力濫用はたしかに問題だが、ウクライナで「不正」を働いたとみられるバイデン父子を「野放し」にしたままでいいとは思えない。不正をたださなければ、悪がますますはびこる。「不正なカネをあとで返して終わり」というような日本的「解決」も腐敗跋扈につながるだろう。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください