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高齢化問題解決のカギを握るジェンダー平等の視点

アジア太平洋地域で深刻化する高齢化をめぐりUNFPA地域事務所長が提言

ビヨン・アンダーソン 国連人口基金(UNFPA)アジア太平洋地域事務所長

経済的に自立できていない高齢女性も多いが、孫の面倒を見るのは彼女たちの役割、ミャンマー©Age International

世界の人口が増え続ける今、高齢化の進展は日本のみならず地球全体が抱える課題だ。とりわけ、アジア太平洋地域では深刻である。持続可能な開発への阻害要因ともなりかねないこの課題に、われわれはどう対応するべきか?国連人口基金(UNFPA)アジア太平洋地域事務所長のビヨン・アンダーソン氏に寄稿をしていただいた。
※この記事は日本語と英語の2カ国語で公開しています。英語版でもご覧ください。(論座編集部)

高齢化に直面するアジア太平洋地域

 アジア太平洋地域では、高齢化の現実に直面する国々がますます増えてきている。各国政府はこの人口動態の変化を、経済成長を含む持続可能な開発への脅威と感じている。しかし、その脅威はジェンダーの平等を課題解決のための戦略や政策の中心に据えることで、人々の「ウェル・ビーイング」(心身ともに健康で良好な状態)と繁栄に転換する機会となり得る。

  世界の高齢者人口は2050年までに20億人を超えると予想されている。その3分の2に当たる約13億人はアジア太平洋地域に暮らしている。その4人に1人は60歳以上であり、北東・東アジアにおいては、3人に1人の割合になる。

 また、現在アジア太平洋地域における高齢者人口の54%は女性が占め、さらに、80歳以上の高齢者における女性の割合は61%以上である。これは「高齢化の女性化」と呼ばれている。

貧困に陥る可能性が高い高齢女性

年老いた夫婦の散歩、中国©UNFPA China)

 平均寿命が延びたのは、人々の「生活の質」が向上した結果、自発的な「家族計画」が功を奏して出生率が低下したことによる社会経済の発展に伴う素晴らしい成果である。しかしながら、この人口動態の変化は複雑な影響を社会に及ぼす。いずれも、各国政府と市民社会が連携して取り組まなければならない課題である。

 不安定な収入、資産不足、そして不十分な社会的セーフティネットのため、多くの高齢者が日々を生き抜くのに苦労しており、極度の貧困に陥っている。特に高齢女性は、高齢になってからだけではなく、若い時から不利な立場に置かれているため、貧困に陥る可能性がより高い。

 架空のある女性を例として考えてみよう。

 彼女は小さい村で生まれ育ち、現在70代だ。彼女の世代の多くの女性と同じように、最低限の教育しか受けず、未成年で結婚させられた。若くして母となるが、その妊娠は予定していたものではなく、出産にもリスクが伴った。夫は、彼女よりもだいぶ年上だったため早くに死別した。彼女は職業につく「技術」を持たなかったため、一人で生計を立てることのできない未亡人になった。

 このようなケースは珍しくはない。多くの場所で、そして数多くの状況の中で見受けられる。

出産について女性自らが決められたら……

高齢者に対する教育、ネパール©Ageing Nepal
 しかし、もしこの女性が若い頃に高等教育を受けていたらどうだろう。有給の仕事に就くことができ、大人になり、自分がそう希望すれば結婚もできる。子どもを産むか産まないか、いつ、何人産むのかを自分で決めることができ、最終的には、高齢になった時に自らの人生を楽しむことができるだろう。

 このような良き人生は、ジェンダーの平等を基盤とする持続可能な開発の中核を成す個人の権利 ――とりわけ性と生殖に関する健康と権利――を選択する自由を反映したものである。

 こうした考え方は、1994年にカイロで開催された「国際人口開発会議」(ICPD)において、179ヵ国の承認によって採択された「行動計画」に定められている。

ジェンダー平等に基づく政策が必要

 ICPDは、高齢化に取り組むためには、机上の空論ではなく、政府がその国民全体に対し、いかに賢明な投資をするかが重要であるとしている。これは自明のことのように聞こえるが、ジェンダーの平等は職場と同様、家庭においても非常に重要である。

ベトナムでは、世代を超えた人口高齢化に取り組む対策が具体化し始めている、ベトナム©UNFPA Viet Nam
 ジェンダーの平等をもとに家事を分担したり、子どもが生まれてから夫婦で同じように育児休暇を活用したりしているカップルほど、二人目の子どもをつくる傾向があるという説得力のあるデータもある。

 少子高齢化の問題を抱えている国々は、ジェンダーの平等を基盤とした公平な政策を促進し、より平等で公正な世界を実現する必要がある。

 政府は、出生率の低下と高齢化への対策として、女性により多くの子どもを産ませようとする人口増加を提唱する政策を押しつけてはならない。近年、世界的に広がっている保守主義に多くみられるこのような対応は逆効果である。それどころか、人々の生活の実態を無視し、人権と選択の自由を奪い、結果的にICPD以降にわれわれが獲得してきた成果を脅かすことになる。

将来を見据えた政治的リーダーシップこそ重要

国際人口開発会議(ICPD)25周年を記念するナイロビサミットは、11月12~14日に開催される
 高齢化に対して有効な対策をとるためには、ICPDの活動を再び想起し、促進させるための、将来を見据えた政治的なリーダーシップが必要である。それなしには、「誰も取り残さない」と誓った、2030年までの「持続可能な開発アジェンダ」と「持続可能な開発目標」を達成することはできない。

 われわれは各国政府に対し、高齢化への懸念を乗り越え、ジェンダーの平等と人権を核とした革新的な戦略や解決策を策定するよう呼び掛ける。アジア太平洋地域の未来、とりわけこの地域に住む女性の未来は、そこに掛かっている。

 さる10月1日は「国際高齢者デー」であった。われわれ国連人口基金(UNFPA)は11月、ケニアとデンマーク政府と共に開催する「ナイロビ・サミット」において、1994年に「国際人口開発会議」(ICPD)で決めた約束を果たすため、「残された課題」に向けたコミットメントを再確認する予定である。人口高齢化に対し、いかに戦略的に、そして総合的に取り組むかは重要な議題となるだろう。