ルノーの子会社化が色濃くなった日産の新たな布陣
グローバル企業が海外の子会社に使う「定石」を踏まえた人事が持つ意味
酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授
グローバル企業に共通の手法

新社長になった日産自動車の内田誠氏=同社提供
今回の日産の布陣は、日本企業がクロスボーダーM&Aをした後などに、海外子会社の体制に使う「定石」と同じである。海外金融機関の多くの日本子会社もそうであるように、基本的には世界のグローバル企業に共通の手法だ。
普通は、子会社側の代表をCEOに、親会社との連絡を行う親会社からの派遣者をCo-CEO(共同経営責任者)に、実務を行う担当者をCOOにというものなので、多少の相違点はあるが、日産の場合も基本的に変わりはない。
つまり、本部の意向で経営したいものの、日本の生産現場や市場環境、子会社の親会社への感情等がわからないため、基本は日産勢に任せたうえで、三菱でスムーズなコミュニケーションを定着させ始めていた親会社派遣のグプタ氏をCOOに赴任させたということだろう。
ちなみに、1999年のゴーン前会長着任時がこうした定石と異なるのは、日産の経営失敗による破綻(はたん)を防ぐための救済だったので、当時の日産の経営体制をすべて否定するところから始まったためである。

新体制で副COOに就く関潤氏=同社提供
なお、内田氏と関氏は、年齢も中国子会社のトップ経験も含めた全くの逆転人事である。しかし、アライアンス推進のための意思と経営能力という点、昨年11月からの一連の事態の際に海外にいたことで今後、ゴーン前会長の訴訟等から距離を置ける点、さらに西川・前CEOからも距離があったので新規色を出せる点を勘案し、内田氏を選んだのだろう。
グプタ氏がCOO指名されたのは、彼がフランス人ではなく、経歴上もフランス的やり方にも染まっていないため、三菱等での1年余の実績を含めて、ルノーの意思を代表するなかで、日産との緩衝材となり得ると判断されたためだろう。そこにルノー経営陣の意志が透けてみえる。
余談ながら、欧州諸国の国内の守備隊編成や植民地経営の歴史では、本国人ではなく、別の国からの管理官を使用する事例は少なくない。例えば、フランスで1789年にバスチーユ監獄を守っていたのはスイスからの傭兵だし、アメリカ独立戦争に加担したドイツ人等も最初はイギリスの雇人だった人たちがいた。
ここで生じるリスクは、ミイラ取りがミイラになることだが、ボストン茶会事件でイギリス海軍が米国人の行動を傍観したことを考えれば、ゴーン前会長のケースと同じというのが歴史の教訓だ。
ルノーの日程に配慮か

日産の新COOに就くアシュワニ・グプタ氏=2019年5月22日、東京都内
日産の記者会見はいつも夜遅くに開かれるが、これはグローバル企業として珍しい。今回の会見も午後8時半の開始だった。当日の指名委員会での候補者の最終ヒアリングから決定、及び取締役会での決定までのプロセスと発表を、一日でやってしまったためである。
ゴーン色を払拭するとして翌12日、ルノーはボレロCEOを実質的に解任し、臨時のCEOにテルボスCFOを、その補佐役として二人の副CEOを決めており、この日程に日産の取締役会も合わせる必要があったということだと思われる。
本来であれば、指名委員会での新CEO、COO、副COOの選任から取締役会での決定まで時間を置いて、旧CEO、COOの処遇と同時に発表するのが妥当だったと思うが、ルノーとの関係上、時間がなかったのだろう。
名実ともに、日産はルノーの子会社になりつつあるのだ。