メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

関西電力事件、菓子箱の底に金の小判って何さ?

[158]福井県小浜・高浜、関西電力記者会見、過労死したNHK記者を考える会……

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

10月1日(火) 午前中の「報道特集」の打ち合わせはパスして、関西電力の金品受領事件の取材で福井県の小浜と高浜へ移動。いくつかの予定をキャンセルしながら移動。東京から福井は本当に遠いのだ。感覚的には沖縄の方がずっと近い。移動時間で。新横浜駅を7時52分発の新幹線で米原へ。そこから北陸本線、小浜線で小浜へ。

 小浜で目指すは明通寺だ。このお寺に来るのは何年ぶりか。大飯原発再稼働の時だった気がするからもう6年ぶりか。明通寺は、大同元年(806年)に、坂上田村麻呂によって創建されたと伝えられている古い由緒あるお寺だ。本堂と三重塔は国宝に指定されていて一見の価値がある。山あいの中にあって静かだ。こころが洗われる。

 ここに来たのは住職の中嶌(なかじま)哲演さんを取材するためだ。「関西電力良くし隊」を名乗る関電の原発マネー還流の「内部告発文書」が中嶌さんの所属する反原発市民団体(福井から原発を止める裁判の会)に郵送されてきていた事実を中嶌さんからお聞きしていたので。その文書の実物と封筒などを見たいと思ったのだ。今回はKIディレクターらとの道行き。封筒の実物はみつからなかったが、コピーが残っていた。関電本社の住所で差出人は「関西電力良くし隊」。消印は大阪だったそうだ。

関電本社前で「反原発」を訴える中嶌哲演さん=5月17日、大阪市北区 20170年5月関電本社前で「反原発」を訴える中嶌哲演住職=2017年5月

 中嶌さんたちは小浜や高浜などを拠点に原発に反対する運動を長年にわたって繰り広げてきた。地域では少数派だが、こころざしに揺るぎはない。「良くし隊」はその市民運動の事務局の住所を知っていたのだ。文書は2種類だと思っていたら、KIディレクターが他の2種類の文書に気づき、全部で4種類あることがわかった。新たな2通は「最後通牒」となっていて、差出相手は関電の監査役になっていた。

 文書の中身は、金品を受け取っていた経営幹部の実名や、社内の「コンプライアンス委員会が隠蔽作戦会議と化している」などとあり、会社の実情にある程度精通した人物からのものと思われる。中嶌さんのお仲間の方2人にもお話をうかがった。今年の3月に死去した森山栄治高浜町元助役のことを「虚勢を張っていただけで、実際は小心者だった」と見立てていた。

 その後、高浜町在住の方の案内で高浜町内を回る。高浜町役場は、御殿みたいに立派で、内部に入ると、杉の木をたくさん使ったお洒落な設計になっていた。なるほど公共施設は立派だ。原発立地に共通の特徴だ。その後、共産党のW町議に話を聞きに行くと、メディアが列をなしているような状況。そこでの話は森山元助役の権勢についてだったが、ひとつの背景として同和問題を持ち出されていた。いろいろな出来事があったらしいが、同和問題とこの金品受領事件を簡単に結びつけると、一種の陰謀史観に陥るおそれがあると、話を聞きながら思った。高浜町で会合があると、森山元助役のコーヒーカップだけは皿がついていたとか。

高浜町役場豪華な高浜町役場の建物

 その後、この助役が関わっていた「吉田開発」などいくつかの企業をみて回る。他社が取材に来ている。暗くなってきて最後に、森山氏の実家を見て回ったが、ブロック塀で囲われた敷地は広大で、どこか異様な感じがした。高浜町は原発マネーなしではもはや成り立たない町になっていることは今日だけでも感じ取れる。一日中移動しまわって、少しばかり疲れた。何の飾り気もないビジネスホテルのベッドですぐに眠りに落ちた。

関電記者会見、メディアの質問力が甘いのだ

10月2日(水) 何しろここは大都市から離れている。今日の午後、大阪で関西電力経営トップの2回目の記者会見がある。それをカバーするために、いったん高浜町を離れてKIディレクターらと別行動をとる。朝、ローカル線の小浜線に乗って敦賀まで出て、そこで新大阪行きの北陸本線に。12時半には新大阪に着いた。

 13時半にKAディレクターらと合流。記者会見場の堂島リバーフォーラムのホールにはすでに大勢の報道陣が詰めかけていた。とっくに前の方の席は場所取り戦に参加した社で占領されていた。みると耳にイヤホンをさしてスーツを着ている関電の社員らが会場各所に配されている。フリーランスの今西憲之氏を見かけ、あいさつした。

 関電からは八木誠会長と岩根茂樹社長、それに事務方の2名が両脇にいた。会見開始の直前にペーパーが配布された。関電の社内調査委員会の報告書だが、一部が黒塗りになっていた。岩根社長が、報告書の要点に触れながら説明をしていったが、まるで関電が森山元助役の金品贈与の「被害者」であるかのような説明に唖然とした。返す機会をうかがっていたが返せなかったと。ひどい恫喝があっただの、個人の責任で一時的に保管していただの、見苦しい限りの言い訳を並べていた。不適切だが違法ではない、という一線だけは執拗に守っていた。

会見で頭を下げる、関西電力の岩根茂樹社長(右)と八木誠会長=2019年10月2日会見で頭を下げる、関西電力の岩根茂樹社長(右)と八木誠会長=2019年10月2日

 添付されていた金品受領に関する一覧表も呆れるばかりの代物だった。現金、商品券、米ドル、金の小判、純金インゴット、金杯。江戸時代かよ。ダメ押しが1着50万円相当のスーツ仕立券。八木会長はちゃっかりスーツを仕立てていた。

 幹事社が質問したが相手の答えがのらりくらりだったので、挙手して質問した。例の内部告発文書についてこの場で直接あてるのはちょっとまずいと判断して、「関電内部で今回の不正を指摘する声が岩根社長のもとに届いていたということはなかったのか」と質した。さらに「受領した金品はどのように返したのか」、「これほどの明白な不正で企業経営者としての倫理的責任から身を退かれる気持ちはないのか」。岩根社長は、就任祝いにいただいた菓子箱の底の方に金の小判が入っていたと告白した。本当にまるで江戸時代。

 会見は、その後の小林敬弁護士(この調査報告書を作成した責任者であり、社内調査委員会のメンバーでもある)による補足会見も含めて6時間近くに及んだが、ついに会長、社長らは「辞任する」とは言わなかった。反省を込めて言うのだが、これだけのひどい説明で、経営陣を辞任に追い込めなかったのは

・・・ログインして読む
(残り:約3078文字/本文:約5575文字)