メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

「イスラム国がモザンビークを攻撃」の衝撃(下)

天然ガス開発の深刻な影響と日本の関与

舩田クラーセンさやか 国際関係学博士、明治学院大学国際平和研究所研究員

「投資家を教育せよ」の声が高まる

 当然ながら、事業主である三井物産・JOGMEG、これを後押しする外務省も、現地の状況は把握している。しかし、日本のメディアや市民が関心を寄せない中、日本やアジア市場が必要とするエネルギー源が手に入り、儲るのであればそれでいいと考えさせるだけの「遠さ」が二国の間に横たわる。

 しかし、この「スルー可能な状態」は長くは続かないだろう。

 天然ガス開発の結果として、モザンビーク国政全体とカーボデルガード州に生じている深刻な事態は、無視できないレベルになりつつあるからである。現実に、モザンビークの現政権・与党やその周辺は腐敗の度合いを深める一方、カーボデルガード州では土地収奪や住民移転により深刻な社会的格差や困窮状態が生じている。そして、これに乗じた武力攻撃が社会に浸透し、地理的に拡散しつつある中で、軍や警察の住民に対する国家暴力が激しくなっている。

 1977年から16年間もの戦争を余儀なくされたモザンビークの人びとは、1992年の和平合意以来、試行錯誤しながらも平和で民主的で、公正なる社会の創造に努力し続けてきた。日本も、これを支援しようと、国連平和維持活動や元反政府ゲリラ勢力レナモの政党化に向けて多額の資金を拠出している。

 しかし、日本の官民によるモザンビークへの開発援助や投資は、ここ10年ほど、「中国に負けるな」を合い言葉に、このような脆い平和と民主主義の土台を揺るがすものになりつつある。

 前回記事で詳しく取り上げた、米国の外交政策に強い影響力を有するシンクタンクCSIS(国際戦略研究所)のシンポジウムでは、カーボデルガード州で広がる武力攻撃の分析を行った登壇者から以下の提言が次々に口にされた(こちら参照) 。

 「投資家を教育せよ(Educate the investors)」

 「第二の投資家」としてモザンビークの天然ガス開発に邁進する企業と独立行政法人を税金で支える日本。つまり、日本の一般の納税者、そして電力ユーザー(消費者)もまた、その責任を問われているのである。

 さらに、「遠い、遠い」とばかりいっていられない現実も迫りつつある。

 今年6月、天然ガスの第四鉱区を開発するイタリアEni社の株主総会にモザンビークの環境NGOが参加し、事業への反対を表明するとともに環境社会面での厳しい質問を多数投げかけた。環境NGO(前回記事で動画を紹介したJustiça Ambiental)は、住民の土地収奪・移転問題といった人権侵害問題に加え、天然ガス開発によってモザンビークの温室効果ガス排出量が10%増加する問題、ユネスコ生物多様性保護区として指定されているにもかかわらず海洋汚染に道が開かれる問題などを指摘している(Justiça Ambiental声明 2019年6月14日)。

 これらはすべて、三井物産やJOGMEGだけでなく、日本の納税者・消費者に対して向けられているものとして受け止めるべきだろう。

 イタリアでのEni株主総会参加後、この団体はヨーロッパ各国で関連企業や政府機関を訪問し、事業への反対の意思表示を行っている。また、これら投資・消費国の議会や市民社会との連携を広げつつある。

 今年7月31日の国際NGO・FOEのラジオ番組(RealWorldRadio)では、すでに日本の関与も指摘されている。今後、日本企業やJOGMEG、政府の責任が問われていく可能性は否定できない。

 ただし、ここにきて、事態は急速に、「『我々が』教育される」だけでは十分でないところまで達しつつある。来週10月15日に、モザンビークで大統領・議会選挙が予定され、ますます武力攻撃が激しくなっているだけではない。世界レベルの変動が、モザンビーク北部のこの天然ガス開発をめぐって生じているのである。

 この最中の9月26日、カーボデルガード州の南隣のナンプーラ州のナカラ国際空港に、ロシアからの軍事支援が到着した写真が国内外を駆け巡ったのである。

 一体、何が起きているのか? 本稿と次の「結」で、これを明らかにしていきたい。

大統領選に向けて加速化する武力攻撃

拡大武力攻撃直後の写真(今回のものではない)=「モザンビークのいのちをつなぐ会」提供

 先述のとおり、来週15日の選挙を控えて、カーボデルガード州の武力攻撃はますます拡大の様相を見せている。9月18日には、マコミア郡のキテラジョ村で2度の攻撃があり、6名の死者と10名の住民の誘拐事件が発生した(Lusa 2019年9月20日)。ここでは、8月に2名、6月にすでに10名が亡くなっている。

 9月25日には、天然ガス開発の拠点モシンボア・デ・プライア郡のムバウ村で、与党フレリモ党本部や家々が襲撃されている。機動隊との銃撃戦を経て、10名から15名近くの犠牲者が生じただけではない。同日、近くのムイドゥンベ郡のリンダラ村でも2名の男性が殺された(DW 2019年9月25日)。これらの襲撃について、ISISは、先月18日と26日に自らの関与を発表したが、実際のところは疑問視されている(DW 2019年9月25日)。

 しかし、現時点でISISの直接関与の可能性が依然として低いとしても、武力攻撃が、7月時点よりも、さらに地理的拡大を見せている点は注意が必要である。さらに、ISISが、9月18日の声明で、これらの攻撃を「ムジャヒディーン(ジハード遂行者)によるキリスト教徒への復讐である」とした点は懸念される(Lusa 2019年9月20日)。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


関連記事

筆者

舩田クラーセンさやか

舩田クラーセンさやか(ふなだクラーセンさやか) 国際関係学博士、明治学院大学国際平和研究所研究員

京都生まれ。国際関係学博士(津田塾大学)。1994年にモザンビークにて平和維持活動(UNMOZ)に参加し、パレスチナとボスニア・ヘルツェゴビナなどで政府派遣要員として紛争後の民主選挙の監視に関わった。その後、研究活動を進め、2004年から2015年まで、東京外国語大学にて「戦争と平和学」「アフリカ研究」「国際開発・協力」などの教育に携わる。その後、研究の軸足を「食と農」に移すとともに日本内外で市民社会の活動にも積極的に関わっている。著書に「モザンビーク解放闘争史〜「統一」と「分裂」の起源を求めて」(御茶の水書房)、The Origins of War in Mozambique (African Minds)、共著に「解放と暴力〜アフリカにおける植民地支配と現在」(東京大学出版会)、The Japanese in Latin America(Illinois University Press)、編著に「アフリカ学入門」(明石書店)、訳書に「国境を越える農民運動〜草の根が変えるダイナミズム」(明石書店)。 ブログ:https://afriqclass.exblog.jp/ ツイッター:https://twitter.com/sayakafc

舩田クラーセンさやかの記事

もっと見る