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選挙のプロが見る変容する選挙戦と政党再生の道

夏の参院選が示した従来型選挙の限界。憲法改正の国民投票を転機にできるか?

大濱﨑卓真 選挙コンサルタント

参院選の開票中、テレビのインタビューに答える安倍晋三首相=2019年7月21日、東京・永田町の自民党本部

 今年は、統一地方選挙と参議院議員通常選挙(以下、参院選)が重なる12年に一度の選挙イヤーでした。すでにいずれの選挙も終わりましたが、永田町では、年末に衆議院議員選挙(以下、衆院選)も重なるのではとの声が、根強くあります。若手議員をはじめとして、選挙の準備にかかる陣営の声も聞くようになりました。

 ただ、私自身は平成から令和への改元にかかわる各種行事の日程や、国政選挙をすれば確実にかかる経済的負担、さらに台風がもたらした甚大な災害被害への対応など優先すべき政治課題の存在から、年内の衆院選は難しいのではと考えています。

 相変わらず連立政権をくむ自民・公明の勝利に終わった今夏の参院選ですが、その一方で、低投票率に象徴される従来型選挙の限界や、従来型の政党とは異なる新たな政党の躍進が注目を集めました。選挙のプロである選挙コンサルタントとしては、一見、淡々としていたこの参院選に、次の衆院選を左右するかもしれない要素が潜んでいる気がしてなりません。

 そこで本稿では、参院選で新たに議席を獲得した二つの政党、「れいわ新選組」と「NHKから国民を守る党」を分析しつつ、これからの選挙戦のあり方について考えてみたいと思います。

選挙戦略に大切なペルソナの設定

 選挙戦略を立案する際の大事な作業のひとつに、自分に投票をしてくれる人のイメージを膨らます作業、いわゆる「ペルソナの設定」があります。特に定数の多い地方議会議員選挙などでは、候補者は自分が狙うペルソナについて多角的に考察し、どこに住んでいるどのような人から票を集めるかを考えなければなりません。

 これに対し、小選挙区制である衆院選や首長選挙など定数1の選挙では、相手より1票でも多くの票を獲得しなければなりませんから、「ペルソナの設定」もより複雑になります。特定の人だけを対象にしていては、過半数に達しないからです。当然、幾つかのペルソナを設定することになります。

比例区での当選を決め、関係者と「NHKをぶっ壊す!」と叫ぶNHKから国民を守る党の立花孝志代表(中央)=2019年7月22日、東京都港区
 一方、「NHKから国民を守る党」のように一つの政策で勝負をする「ワン・イシュー」の政党は、ペルソナの設定をきわめて緻密に行って選挙戦に反映させることにより、数は少なくても確実に存在する潜在的支持者を見つけ出し、得票につなげようとしてきました。そうした努力の結果、同党は今や地方議員を30人も抱えるに至りました(2019年10月現在)。うち11人が定数の多い東京23区の区議会議員であること、東京・千葉などの都心部に偏っていることから、都心部在住の地縁血縁のない人というペルソナを設定していることは明白です。

伝統的家父長制を前提とした世論形成が崩壊

 昭和から平成にかけて、これまで長く続いてきた政党は、多かれ少なかれ、ペルソナを設定する前提に、「伝統的家父長制」の影響を受けたと思われます。具体的には、宅配される新聞を読み、その日のお茶の間の話題にするような「サザエさん的」な世界です。そうした政治世論形成においては、世帯主たる父親こそが家庭内の世論形成の柱だとされてきました。

 そこで、主要政党は一家の主である父親をペルソナに据えた。彼らにどうアプローチして政策を理解してもらうか。そして、後援会に入会してもらうのかが、これまでの選挙の基本でした。

 しかし、家族のかたちが変わり、新聞の購読率も下がっている今は、伝統的家父長制を前提としたこうした政治世論形成は崩壊しつつあります。スマートフォンの普及率が高くなり、同じ屋根の下で同じ事件のニュースを読んでいる親子でも、たとえば父親は産経新聞の、母親は朝日新聞の、息子や娘は日経オンラインやヤフーニュースの記事を読んでいて、同一世帯なのに捉え方がまったく異なるという現象があってもおかしくありません。

 今夏の参院選で議席獲得が話題になった「れいわ新選組」や「NHKから国民を守る党」は、いずれも世帯に依拠せず、個人を基にした票獲得のモデルで選挙を戦いました。たとえば、個人単位での視聴が多いYoutubeなどインターネットビデオでの情報の拡散、若い世代を狙った場所での街頭演説は、明らかに世帯を無視した選挙戦略です。と同時に、マスメディアでは大きく報道されない政策課題にスポットをあてるという方法論は、「サザエさん的」な政治世論形成とは対極にあると言っても過言ではないでしょう。

7月の参院選投開票日前夜、山本太郎代表(手前)ら「れいわ新選組」候補者が「最後の訴え」をした新宿駅前は大勢の人たちで埋まった=2019年7月20日

変化には時間がかかる政党

 ただ、ここで強く言いたいのは、選挙戦略の差異が、政党そのもののカラーや政策の性格によるものだと決めつけるのは早計だということです。

 いわゆる既存の政党には、四半世紀も前に行われた中選挙区制による衆院選(1993年が最後でした)を経験した国会議員が、安倍晋三首相をはじめとしてまだいます。公職選挙法のたび重なる改正や、社会構造や時代趨勢の変化、IT技術の進化などで、この四半世紀に選挙を取り巻く外部環境は大きく変化しましたが、永田町の変化はこうした外部環境の変化に比べ、遅れるのが常です。

 2020年に結党65年を迎える自民党は今や人間に例えれば高齢者の一歩手前。依然として自己完結能力を持ちつつも、逆に大きく変化することは生やさしいことではありません。立憲民主党や国民民主党、公明党や共産党などの主要政党も、これまでの政党の成り立ちを考えると、程度の差はあれ、似たような状況でしょう。

 他方、ベンチャー政党は新しい外部環境に順応することで得票を増やしていますが、さらにメジャーになり、政党カラーや政策を確立するにはまだ時間がかかるし、より多くの政治的資源が必要です。

 では、主要政党はこのまま外部環境の変化に順応できず、ジリ貧の運命を辿(たど)るのでしょうか。確かに政党そのものの老化は止められませんが、政党組織を生まれ変わらせること、すなわち「リボーン」することは可能だと、私は考えています。

選挙を変える契機になる憲法改正

 では、そうしたリボーンの機会は近いうちに来るのでしょうか?

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