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習近平の大いなる変身

中国建国70周年式典の演説は8分。「新時代」も「強国」もなし。一体何が起きたのか

冨名腰隆 朝日新聞記者 中国総局員

消えた「鄧小平」

 習氏が何を語らず、何を語ろうとしたかを見極めるために、過去との比較は有用だろう。

 今回の式典は10年ぶりであり、建国60周年の際には胡氏が、さらに10年前の50周年では江氏が同じ場所で演説している。3氏のそれは全体的に構成が似通っており、習氏が過去の演説を下地にしたことに疑いの余地はない。つまり、その変化を見ていけば、習氏の伝えようとしたものが浮かび上がるはずだ。

 ちなみに習氏の演説は、胡・江両氏と比べても、2~3割短くなっている。

 建国の節目を喜び、誇り、中国人民や世界に感謝を表す導入は、3氏ともほぼ同じだ。その次の歴代指導者の功績に言及する部分で、大きな違いが現れてくる。

 例えば、江氏は毛沢東と鄧小平の名前を挙げて「社会主義建設の船が現代化の栄光へと勇ましく航海を始めた」と述べた。胡氏は、さらに江氏も加えて「党中央の指導の下に、人民が困難や試練を乗り越えて発展を遂げた」と強調している。

 これに対し、習氏は建国を世界に宣言した毛にのみ触れ、他の指導者の名前は一切出していない。さらに江・胡両氏が鄧の改革開放について「社会主義のみが中国を救い、改革開放のみが中国を発展させることを証明した」とたたえたくだりを、ばっさり削ってしまった。

 第19回党大会で規約に盛り込まれた習氏の思想は、毛の時代を「站起来(立ち上がる)」、鄧の時代を「富起来(豊かになる)」とし、自らの時代を「強起来(強くなる)」と区分したが、今では江・胡両氏はおろか国家の中興の祖とも称される鄧にさえ言及しなくなったことがわかる。

 また、江・胡両氏は「5千年」を掲げて中華民族の悠久の歴史を誇ったが、習演説からはそうした壮大さが影をひそめ、現実的な内容に終始した。かつて好んで故事を引用し、それらを集めた本まで出版している習氏の語りとしては何とも味気なく思えてしまうが、無駄をなくしたことで引き締まった感はある。

拡大習近平国家主席(中央)と並んで軍事パレードを見守る江沢民氏(向かって右)、胡錦濤氏(同左)ら=2019年10月1日、北京

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筆者

冨名腰隆

冨名腰隆(ふなこし・たかし) 朝日新聞記者 中国総局員

1977年、大阪府生まれ。同志社大学法学部卒。2000年、朝日新聞入社。静岡、新潟総局を経て2005年に政治部。首相官邸、自民党、公明党、民主党、外務省などを担当。2016年に上海支局長、2018年より中国総局員。共著に「小泉純一郎、最後の闘い ただちに『原発ゼロ』へ!」(筑摩書房)

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