台風19号の被害があぶり出した日本の本当の危機
実は日本の安全を低下させる大型公共事業。気候変動・人口減少に応じたインフラ整備を
米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士
最大雨量の上昇に対応していない治水インフラ
まず、雨量についてです。「年間雨量」自体は横ばいで実感しづらいのですが、雨の降り方は近年、明らかに変化しています。具体的には、「非常に激しい雨」とされる時間降水量50mm以上の年間発生回数が、観測を開始した1976~85の10年間に比べて2009~2018の10年間で1.4倍に、「猛烈な雨」である80mm以上の雨は1.6倍に、全国の日降水量が200mm以上の日は1.5倍に、400mm以上の日は1.8倍に、それぞれ増加しています(気象庁HP)。
私が新潟県知事だった期間も(決して長くありませんでしたが)、雨が降らない時はまったく降らないのに、いったん降り出すと簡単に「平年」や「大雨時の想定水位」を越えました。県内のどこかの地点で過去最高水準の雨が降り、堤防の越水や決壊ギリギリの状況や小規模な欠壊(誤字ではなく、欠けているけれど決壊していない状況をこういいます)が生じ、肝を冷やして突貫の補修工事で対応することが幾度もありました。地球温暖化による気候変動の影響をまざまざと実感したものです。
日本のインフラは1960~70年代の高度成長期に整備されたものが多いのですが、現在の最大雨量(水量)は、おそらく当時の推定量の2~3割増しとなっていると思われます。裏返して言えば、現在の日本の治水インフラの多くは、最大雨量(水量)が2~3割少なかった50年前の想定でつくられたものであり、温暖化が進んだ現在の降雨には対応していないのです。

記録的な大雨に見舞われた箱根町では芦ノ湖が氾濫(はんらん)し、箱根海賊船箱根町港乗り場前が水没した=2019年10月13日、神奈川県箱根町箱根
経年劣化するインフラと逼迫する地方財政
その一方で、つくってから50年たてば土の堤防はもちろんコンクリートの堤防も劣化します。川底にもダムの底にも土砂がたまり、水路は狭くなり、揚水ポンプは古くなって揚水力が衰えます。他のあらゆる設備と同じように治水インフラも当然のことながら経年劣化し、適切なメンテナンスを行わなければ、機能を十分に果たすことはできません。
ところが、地方財政は高齢化に伴う社会保障の支出増、景気の停滞や人口減少による税収減、そして平成期に大量に発行した地方債の返済で極めて逼迫(ひっぱく)しています。地方財政の財政規模自体は近年ほぼ変わっていないのですが、その中に占める「投資的経費」をみると、平成元年(1989年)の20兆円から令和元年(2019年)の13兆円へと6割程度まで減っています(資料参照)。
その一方、社会インフラはつくればつくるだけ増え、社会ストックの総量は平成元年の478兆円から平成26(2014)年には953兆円とおよそ倍に増えています。これは、単純計算上、インフラのメンテナンスにかけられる費用がざっと三分の一になってしまったことを意味します(資料参照)。
国交省の推計においても、今後インフラのメンテナンスに要する費用は増え続け、現在の7兆円程度の公共事業費を前提とすれば、18年後の2037年にはすべての予算をメンテナンスに費やさざるを得なくなり、その後はメンテナンス費用すら賄えなくなります(資料参照)。逆に言うなら、現在のペースでインフラを新設していたら、インフラのメンテナンス不足は加速するばかりなのです。