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「欧州で最も成功した」ポルトガルの社会民主主義

花田吉隆 元防衛大学校教授

ポルトガル・リスボンの街( INTERPIXELS/Shutterstock.com)
 10月6日に行われたポルトガル総選挙で、アントニオ・コスタ首相率いる社会党が勝利した。コスタ首相による4年間の実績が支持された。しかし、同じイベリア半島の隣国スペインはこの4年で4回の総選挙を繰り返す。2019年4月の総選挙の後、半年かけて行った連立交渉はとうとう結論を得ることなく、11月10日に再びやり直し選挙が行われることが決まった(拙稿「「連立交渉がまとまらない」スペインの混迷」参照)。その隣のポルトガルが、同じ中道左派政権ながら、国民の強い支持を受け政権基盤を強化したのと鮮やかな対照だ。両者の違いはどこにあったのか。

欧州の中道左派は衰退の一途

 そもそも、欧州で中道左派は衰退の一途にある。

 例えばドイツで、かつては40%を超える支持率を誇った社会民主党は今や14%あたりまで落ち、中道左派代表としての座を緑の党に譲った。緑の党は昨年来、人気急上昇中で、与党、キリスト教民主社会同盟と首位争いを繰り広げるまでになった。場合によっては、今年中にも緑の党首相の誕生さえある、との見方がないわけではない(拙稿「動き出したドイツ政治の地殻変動」参照)。社会民主党は党存亡の危機だ。

 社会民主主義に対する逆風の中、党の浮沈をかけ、なりふり構わぬ賭けに出たのがデンマークだ。賭けとは他でもない、極右の主張を自らの政策として大幅に取り込むことだ(拙稿「デンマーク総選挙が物語る欧州政治の「末路」」参照)。台頭著しい極右に対し、既存政党がいかに対するかは欧州政治の一つの焦点だ。あくまで極右排除にこだわる党もあれば、その主張を取り込み自らが右傾化した方が国民の支持を伸ばせると考えるところもある。オーストリア国民党は極右の主張を取り込んだ結果、支持率が急回復し、2017年に続きこの9月に行われた総選挙でも大勝した(拙稿「「ポピュリズム」か「環境」か」参照)。しかし、これは国民党という中道「右派」が極右の主張を取り入れた例だ。デンマークが世間を驚かせたのは、中道「左派」が極右の主張を取り入れたからだ。常識的には中道左派と極右とでは立場がかなり異なる。今や、追い詰められた社会民主党の窮状はそこまで来ているということだ。そういう中でのポルトガル中道左派の勝利である。いやが上にも関心を集めざるを得ない。

ユーロ危機の中、救済パッケージの有効性を証明

 もう一つポルトガルが注目される理由がある。同国は2011年、財政破綻の寸前までいった。当時、燃え盛るユーロ危機にあって、ポルトガルをはじめとした地中海諸国はいつ財政破綻に見舞われてもおかしくない、と言われた。しかし、仮にどこかが破綻すれば被害は甚大だ。ユーロ体制自体が崩壊するかもしれない。IMF、ECB(欧州中央銀行)、EUの三者は危機に瀕した国を救うべく必死の対応を続けた。ポルトガルにも780億ユーロが救済資金として提供された。俗にいう「トロイカ合意」だ。

 2017年6月、ポルトガルは晴れて「過剰財政赤字是正手続」を終了、救済国の地位卒業にこぎつけた。コスタ首相の顔は晴れ晴れとしていたが、嬉しいのはコスタ首相だけではない。救済にあたったIMF、ECB、EUにとり、ポルトガルは地中海諸国の中の優等生だ。自らが課した救済パッケージの有効性がみごとに証明されたことにホッと胸をなでおろしたことだろう。それにしても救済パッケージにより課される緊縮政策はどの国の国民にとっても大きな負担で、中には社会不安に至る所もないわけではない。ポルトガルの中道左派政権はいかにして経済を劇的に再生させたのか。

 一部欧州メディアは、コスタ首相の社会党を、「欧州で最も成功を収めた社会民主主義」と評する。他の社会民主主義政党がそろって不遇をかこつ中、ポルトガル社会党の成功はひときわ異彩を放つ。6日の総選挙では、それまでの86議席から一挙に20議席を上積みし106議席を獲得した(暫定値、得票率37%、総数230議席)。対する野党、社会民主党は、それまでの89議席から12議席失い77議席に沈んだ。なお、ポルトガルでは社会党が中道「左派」で、社会民主党が中道「右派」に位置づけされる。

社会党の勝利の要因は好調な経済

 社会党の勝利の要因は何といっても好調な経済だ。GDP成長率は2.7%(2017年)、2.1%(2018年)と続き、2019年は少し落として1.9%の予想だが、それでもEU平均を上回る。何と言っても失業率の改善が著しい。コスタ首相が政権の座に就く直前、

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