関電不祥事を招いた独占企業の体質とボス政治の罪
関電幹部になぜ金品は渡ったのか。地方の利権差配の実情とそこからの脱却方法を考える
三浦瑠麗 国際政治学者・山猫総合研究所代表
リークしたのは誰か?

福井県高浜町の元助役・森山栄治氏=同町提供
高浜原発の立地自治体の高浜町の森山元助役から関西電力の幹部が受領していた多額の金額は個人が管理し、社内で預かり金として処理されていたとされます。
絶大な権力を振るってきた森山氏の死去(今年3月)によってはじめて明るみになったというのが、関電の社内調査文書のトーンですが、金銭の授受が外部に発覚したそもそものきっかけは森山氏の死去ではなく、昨年の金沢国税局の税務調査でした。
税務調査に関わったのは、金沢国税局と、関電の本社や幹部の居住地を管轄する大阪国税局で、調査が始まってから、関電の経営幹部ら6人のうち4人、そして森山氏も修正申告を行っています。修正申告をしたということは、「預り金」という説明が苦しかったことを意味します。それでも、修正申告をしておけば、この件はニュースにはならない見込みだったのでしょう。
共同通信が誰から情報を入手したのかは分かりませんが、金沢国税局、大阪国税局、関電、森山氏サイド、そして森山氏と親しく原発関連工事を受注していた吉田開発で複数の人間が金銭授受に関する事情を把握していたことは確かですから、順当に考えればそのうちのどこかから情報がリークされたとみるのが普通でしょう。
正義感による告発かもしれないし、ライバルを蹴落とすための告発かもしれない。ただ、動機はともかく、この事件が週刊誌ではなく通信社の第一報から広がり、あまねく報道されるようになったのは、週刊誌でスキャンダルが発覚したあとに、役職を辞任したり、政治資金収支報告書を修正したり、あるいは釈明以外何もないままにうやむやなまま終わったりする展開を思うと、いい変化であったように思います。
第三者委員会の職責を超えた問題
関電の役員らは当初、辞任しない意向を示し、早々に幕引きを図るつもりだったようですが、メディア報道を見てそれでは収まらないと見るや。一転して辞任の意向を固め、現在は第三者委員会による調査が行われています。
ただし、この調査には幾つか懸念される点があります。
ひとつは、第三者委員会という機関が持つそもそもの性質からして、その職責が、関電のコンプライアンスの観点に照らし、関電のみを対象とした責任追及に限られていることです。
言うまでもなく、コンプライアンスとは企業などが法令を遵守し、社内ルールを忠実に守り、企業倫理や社会的規範を重視することです。大企業から中小企業に至るまでコンプライアンスは重要ですが、とりわけ公益性の高い大企業や上場企業にはそれが厳しく求められます。関電の場合は、公益性の高い電力を扱う事実上の地域独占企業のため、なおさらです。
今回、関電が第三者委員会を立ち上げたのは、本来コンプライアンスを守るべき経営陣自身が不祥事を起こしたために、経営陣を飛び越えた判断が必要になったからです。第三者委員会は、あくまでも企業に法的社会的責任をはたさせ、再生に向けた方策を提示することに重点があります。別の言い方をすれば、「関電の再生のため」に厳しいジャッジを行う存在なのです。
今回の不祥事は一企業の社会的責任の枠を大きく踏み越えています。ことは取引先から金銭を授受したかどうかだけでない。原発建設や維持管理をめぐり、恒常的な不正が自治体や地方経済において創り出され、国政レベルの政治家や官僚によってそれが黙認されていたのではないかという問題が含まれているからです。
そのような問題は、第三者委員会の手に負えるものではなく、判断ができないだろうと思われます。

会見する第三者委員会の但木敬一委員長=2019年10月9日、大阪市福島区