森ゆうこ議員の懲罰要求署名の格好悪さと不気味さ
偽りの目的を旗印に掲げた署名運動は日本の民主主義にとって極めて危険だ
米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士
森ゆうこ議員の質問は懲罰に当たるのか?
そもそもこの運動は、森議員が10月15日の参議院予算委員会で行った質問が、参議院での懲罰に該当するものであるということが前提ですが、これは本当でしょうか?
いうまでもなく国会は自由な言論の場です。懲罰事犯(懲罰に該当する事案をこういいます)は、議長が職権で懲罰委員会に付託するか、議員から懲罰動議が出されて本会議で可決された後に懲罰委員会に付託されるかに分かれますが、懲罰委員会に付託される事案は決して多くありません。
明確な基準があるとは聞いていませんが、過去に懲罰動議が懲罰委員会に付託されたのは、基本的に議院における暴力であるとか、垂れ幕を掲げるとか(2018年にカジノ法案の採決に際して垂れ幕を掲げた参議院の森ゆうこ議員、山本太郎議員、糸数慶子議員が議長の職権で参院懲罰委員会に付託され、審議未了で廃案となっています=朝日新聞デジタル2018年7月20日=)、規則に違反する無届の海外旅行とか、「外形的規則違反」としてはっきりしたものに限定されています。
「永田メール事件」のケース

偽メールの件で民主党両院議員総会で民主党の議員の前でおわびをした永田寿康衆院議員=2006年2月28日
ただ、少数ながら「質疑内容」自体が懲罰の対象となった事例も存在します。その数少ない事例の一つが、2006年初めに起きた有名な「永田メール事件」です。
この事件は、民主党の永田寿康衆院議員が、「ライブドア元社長の堀江貴文氏が、2005年8月26日付の社内電子メールで、自らの衆院選出馬に関して、武部勤自民党幹事長の次男に対し、選挙コンサルタント費用として3000万円の振込みを指示した」と指摘し、自民党の責任を追及したものですが、そもそも堀江氏は自民党公認でも推薦でもなく、自民党側は直ちに事実関係を否定しました。
これに対し、永田氏は証拠となるメールを公開したのですが、そのメールに明らかな矛盾点が複数あることが指摘され、偽物であることがほぼ確実となりました。これを受けて永田氏は記者会見を開き、証拠として信頼性が不十分なメールを提示して疑惑を追及したことを謝罪したのですが、疑惑自体は否定せず、かつメール取得元も秘匿したために事態はその後も紛糾し、最終的に懲罰動議が提出されて民主党を含む全会一致で可決され、懲罰委員会に付託されたという経過をたどりました(本人の辞任により懲罰動議自体は廃案になっています)。
この事案は、追及の中身が明白に(追及者自身もほんの少し注意すれば分かる程度に)事実に反していたうえ、その後の経過もあまりに無茶苦茶で、懲罰もやむなしとしか言いようがないのですが、逆に言うとここまで無茶苦茶でない限り、「質疑内容」によって懲罰はないというのが、事実上の基準であるように思われます。