森ゆうこ議員の懲罰要求署名の格好悪さと不気味さ
偽りの目的を旗印に掲げた署名運動は日本の民主主義にとって極めて危険だ
米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士
事実に反することは言っていない森議員
では、森議員の質問は、この永田メール事件に相当するようなものでしょうか?
私は端的に「まったくその様なものではない。」と断言できます。何故なら、森議員は、大きく事実に反することは言っていないからです。
森議員の質問をいま一度確認してみましょう(詳しくはこちら。1:32付近から)。その発言は「ワーキングが決めていない。でもね、分科会のメンバー見ると、委員会有識者、原英史、原さんが決めているんですよ、おかしいじゃないですか、分科会が、決めてるから問題ないって、利益相反じゃないですか、普通だったらこれが国家公務員だったら、あっせん利得、収賄で、刑罰を受けるんですよ」というものです。
これに対し、分科会において「原さんが決めている」という発言は事実に反するという主張が、国家戦略特区座長の八田達夫氏によってなされています(詳しくはこちら)。
分科会における意思決定のプロセスについては資料が公開されていませんので、本当のところは分かりませんが、八田氏の言うように他の委員も多数おり、原氏が決められることではないということはもちろんありうると思います。その一方で、WG座長代理の原氏が出席している以上、大きな影響力を行使して事実上決定していたという可能性もまたありえます。
森議員が言う「原さんが決めている」は、原さんが「決めることに関与している」から「自分で決定している」までを含む幅のある表現であり、明白に事実に反するといえるようなものではありません。また、そもそもそれ以前に原氏自身がこの部分をさほど問題視していません。
原氏が問題視する部分

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むしろ原氏が強く問題視しているのは、「これが国家公務員だったら、あっせん利得、収賄で、刑罰を受けるんですよ」の部分ですが、原氏の主張とは裏腹に、この部分は実のところ事実である場合が十分に想定できるものです。
原氏は問題となっているコンサルティング会社から資金を受けていないことを強調していますが、原氏が国家公務員であり、事業者から請託を受けて(原氏はコンサルティングに一定の協力をしていることは認めており、「請託を受けている」と考える方が普通でしょう)、自らと関係のあるコンサルティング会社に報酬を得させていたなら、第三者供賄罪(刑法197条の2)が成立しうるからです。
ただし、誤解して欲しくないのですが、これは、原氏自身が懲罰要求署名運動で述べているように(詳しくはこちら)、「原氏が不正行為をした」ということをまったく意味しません。単に民間人・民間企業が普通にやっていることを、公務員がやったら収賄になるということを意味しているだけなのです。
たとえば、弁護士は顧客からお金を貰って、その顧客の権利を実現します。しかし、仮にこの弁護士が、「国民の人権を実現する公務」を担った公務員なら、特定の人からお金を貰って特定の人の人権だけを実現している時点で、収賄罪が成立しえます。
もし、この弁護士が誰かから「あなたが公務員だったら収賄罪に該当するよ」と言われたら、「ええそうですね。お金を払ってくれたクライアントの利益を最大化するのが私の仕事ですから、公務員なら収賄罪かもしれないですね。でも、ご承知の通り私は公務員ではなく弁護士なので、収賄罪は成立しません。私は弁護士として当然のことをしています」と答えればよいだけのことなのです。
本件のコンサルティング会社もこれと似た図式だと言えます。弁護士は補助金の獲得をはじめとして、公的セクターとの折衝を顧客から依頼されることがあります。その際、その顧客にたとえば税務の相談や何らかのコンサルティングが必要になったら、通常、普段から付き合いのある税理士やコンサルティング会社を顧客に紹介します。民間ビジネス的には持ちつ持たれつは当然であり、むしろそういった同業者同士の相互紹介網を構築することが、顧客サービス向上に繋がるからです。
しかし、もし仮にこの弁護士が「補助金申請を審査する公務員」であったとしたら、どうでしょうか。請託を受けて、自らと関係するコンサルティング会社を紹介し、その会社に報酬を受けさせた時点で、第三者供賄罪が成立しうるのです。